Holding sports festival
体育祭直前の控室。
みんな、緊張をしたり話したりぼーっとしたりと各々の行動をとっていた。
「夜月さん、髪は結ばないのですか?」
隣の椅子に座っていた八百万が問いかけていた。
結んだ方がいいかな、と聞くと勿論と答えられ、夜月は髪をまとめることにした。しかし、普段めったに結ばないおかげでゴムがない。
「よかったら御作りいたしますわ。何か希望の色はありますでしょうか?」
「じゃあ、赤かな」
八百万は早速赤の紙ゴムを創造し、夜月に手渡す。
夜月がポニーテールまとめている間、轟が緑谷に歩み寄っていた。
「緑谷」
「轟くん……なに?」
その珍しさゆえに、何人かの視線はそちらへと向いていく。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!? う、うん……」
「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」
堂々として、大胆不敵な宣戦布告。
部屋は自然とシーンと静まっていた。
「おお!?クラス最強が宣戦布告!!?」
少し離れたテーブルで上鳴が意外そうに言と、切島が仲裁に入る。しかし、轟は「仲良しごっこじゃねぇんだ」と突っぱね、緑谷を見ている。
動揺した緑谷だったが、ぐっと拳を握り覚悟を決めたように話し始める。
「轟くんが、何を思って僕に勝つって言ってんのか……わかんないけど、そりゃ君の方が上だよ。実力なんて大半の人に適わないと思う」
「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねえほうが……」
「でも……!! みんな、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れをとるわけには行かないんだ。僕も本気で獲りに行く!」
はっきりと言った緑谷の目には、熱い闘士が燃えていた。轟もその様子に「おお」と答え、彼らは会話を終えた。
夜月は視界の隅に映った轟を見ていた。
特に何を言うわけでもなく、じっと彼の内面を探るようなそんな瞳だった。
薄暗い通路、奥に見える明かりの先からは、大きな歓声が聞こえてくる。
「一年ステージ!! 生徒の入場だ!!」
実況担当のマイクの声が響く。
同時に生徒は入場した。
「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ! こいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにもかかわらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!! ヒーロー科一年、A組だろおおお!!?』
注がれる期待の眼差しと一際大きい歓声。
続いてB組C組と、どんどんとほかのクラスの生徒達も入場して来る。しかし、そのほとんどがA組に対してあまり良く思っていないはずであるため、彼らからは良い目では見られてはいなかった。
それぞれのクラスが整列を終えると、ミッドナイトが前のだいに上がってくる。今年の一年ステージの主審は彼女が務めるのだ。
「選手宣誓!!」
手に持つ鞭をピシャンと打ちながら言うと、観客席、延いては生徒からもざわざわと声が上がるのをまた一際大きくムチを打って沈める。
「静かにしなさい! 選手代表、1-A爆豪勝己!!」
ミッドナイトから呼ばれた名前に、A組の面々は嫌な予感しかしていなかった。確かに彼の入試成績は1位だ、選ばれても不思議ではない。
ポケットに手を突っ込みながら台に上がっていく様はもう、不良だ。
ゴクリと固唾を飲んで見守るA組の面々を他所に、爆豪は言ってのける。
「せんせー……俺が一位になる」
「「「絶対やると思った!!」」」
その言葉を皮切りに当然の如く、他クラスからはブーイングが降り注いでくる。
それがそのままA組にまで飛び火するのだから、やめてくれよと結は苦笑する。
「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」
クイッと首を切るように手を動かす爆豪は、まさに平常運転。
絶好調だが、歩いてくるその表情に笑みはなく、真剣そのものであった。
「さーて! それじゃあ早速第一種目!! 行きましょう!! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くのものが涙を飲むわ!! さて! 運命の第一種目!! 今年は……」
スロットのように回る映像がバンっと止まり映し出したのは、障害物競走。
11クラス全員参加の総当たりレース。
「さあさあ! 位置につきまくりなさい!」
その言葉に皆がすぐさま動く。夜月は運よく最前列をとれていた。
パッと一つ目のランプが消灯。そして、二つ目が消灯する。そして、三つ目が消えると同時に口を開け息を吸い込んだ。
雄英体育祭、第一種目――障害物競走。