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Remember


夕焼け色の空をした、翌日の放課後である。


「おい」

「ん? なに?」

「なんでいる」

「んー、道が一緒だからじゃない?」

「ちげーだろっ!!」

「あ、知ってたの?」


現在、爆豪の隣を悠々と夜月は歩いていた。
勿論、彼が言っていた通り帰り道は全く違う。夜月が勝手に爆豪についてきているだけだ。

爆豪が忌々し気に舌打ちをする。


「何でとなり歩いてんだ、銀髪女」

「前歩いて怒られたから後ろもきっとダメでしょ? なら隣かなって」

「離れて歩けばいいだろクソがっ!!!」


もはや怒鳴られるのに慣れ、ははっと笑って流す夜月。
それに舌打ちをする爆豪。

爆豪はクソだのなんだの零しながら歩く速度を上げ、先へ行こうとする。流石に早歩きでは追いつけない。
夜月はなるべく速度をあげながらついていく。


「ねぇ」

「あぁ?」

「君って、あの爆豪勝己?」


ピタリと止まり、「はぁ?」という顔でこちらを見る爆豪。まるで「コイツ、何言ってんだ」と言いたげだ。
夜月は表情を崩さず、笑ったまま繰り返す。


「だから、あの爆豪勝己?」

「あのってなんだよあのって! 俺は俺だっ!!」


何人もいて堪るかと怒鳴る。
夜月は小首を傾げて言葉を紡ぐ。その顔は何かを確信していた。


「じゃぁ、やっぱり勝己ってことだよね」


風が少し吹いた。爆豪は停止して、じっとこちらを見つめていた。
停止していると思えばいきなり動き出し、ドスドスと距離を詰め、突然胸倉を掴まれもち上げられる。


「あぁ? テメェ知ってて知らぬふりしてたのか? どうなんだクソが」

「いや、USJまで忘れてた」

「殺すぞクソ女」


爆豪は捨てるように手を放す。その反動で少しよろけるが、すぐに体勢を立て直した。
やっぱりね、と確信した夜月はそっぽを向く爆豪をしたから覗き込む。


「怒ってた?」

「怒ってねぇ!」

「でも、機嫌悪かったよね」

「悪くねぇ!!」


どんどん声音が大きくなっていく。さすがに周りに迷惑か。
夜月はそう?と聞き、話を切った。


「言ってくれればよかったのに」

「んなこと、いちいち言うかよ」

「ふぅん……ま、いいか」


聞きたかったのはそれだけ、と言い夜月は身体をひるがえした。
爆豪と話したかった内容はこれなのである。目的を果たした以上、自分の帰宅路へ戻る。

じゃあねと手を振り、歩き出す。


「おい夜月」


すると爆豪に呼び止められた。名前を呼ばれた。
多分、自分が彼のことを忘れていたから名前で呼ばなかったのだろう。

夜月は「なに?」と振り返る。


「次、忘れたらぶっ殺す」

「……うん、忘れないようにする」


きっと、今度こそ忘れない。
夜月はそう微笑み返した。




幼少期――。

これはまだ、自分に個性がなかったころ。
一時的に引っ越した先で会った爆豪勝己に、個性が現れはじめたとき。

彼の個性は『爆破』。とても強いものだった。
もともと彼自身も強く、それについてきていた夜月にとって、彼は強くカッコイイ存在だった。


「お前には出てねーのかよ、『個性』」

「うん。でも、出ても強くなんかないよ」


母も父も攻撃型の個性ではなかった。
爆豪は「ふーん」と興味なさげに言う。次の瞬間には笑顔でこう言うのだ。


「仕方ねぇから、弱ぇお前を守ってやるよ!」


彼は夜月の家の事情を知っていた。だから、こういった。
その言葉は酷く、夜月にとって嬉しいものだった。


「じゃ、じゃあ。もし、強い『個性』が私に出たら?」

「そんなのねじ伏せてやるよ! 俺より強ぇなんて、ありえねーからな!」


自信満々に、爆豪は言った。
どんなに強くてもそれをねじ伏せ、自分が強いのだと証明する。負けた自分は弱く、彼が言った通り『弱いお前』となる。
だから守ってやるのだと、幼い彼は言った。

それが何より、嬉しかったのだ――。