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Exceed the limit


「……今回はゲームオーバーだ」


黒霧から状況を聞いた死柄木は、異常な行動を止めた。


「帰ろっか。先生のお土産もあるし」


力なく地面に横たわる夜月を見下ろす死柄木。
夜月は瞳だけを動かし、その様子をうかがう。すると彼の背後に、こちらを伺う緑谷と蛙吹、峰田がいた。
一瞬、瞳が強張った。

死柄木たちがこのまま立ち去ると思えば、「その前に……」と呟き、一瞬で姿を消した。
向かった場所は緑谷達のほう。
しまった、と夜月は横たえた体を起こそうと両手に力を入れる。

死柄木の手が蛙吹に触れる――が、触れることはなかった。
その動きは止まった。


「本っ当かっこいいぜ、イレイザーヘッド」


死柄木達から数メートル離れた地点。
相澤の目はギロリとヴィラン達を見据えていた。


「脳無」


その掛け声だけで脳無は相澤の頭部を地面に打ちつけた。


「手を、放せ!!」


緑谷が死柄木に向かい、スマッシュと叫び拳を出した。
しかし、脳無が緑谷達の前に立ちふさがる。ビクともしない脳無。

次の瞬間――バアンと激しい音を立て、入り口の扉が吹き飛ぶ。


「もう大丈夫。私が来た!!」


平和の象徴が、オールマイトが到着した。
ネクタイを引きちぎったオールマイトは、圧倒的な存在感でその場を支配した。


「待ったよヒーロー、社会のごみめ」


死柄木がオールマイトに向かい、そう言い放った。

オールマイトは目にも見えない速さで立ちはだかる敵を押しのけ、まず相澤と夜月を救出した。
そのまま緑谷、蛙吹、峰田を救出し、一発死柄木を殴って距離を取る。


「え!? え!? あれ!? 速ぇ…….!」


峰田がワンテンポ遅れて驚きの声をあげた。


「皆入り口へ! 相澤君と瓦楽少女を頼んだ。早く!」

「オールマイトダメです! あの脳みそヴィラン! ワン……僕の腕が折れないくらいの力だけどビクともしなかった! きっとあいつ……」

「緑谷少年。大丈夫」


切実な叫びだ。
けれどもオールマイトはピースしてニカっと笑う。その気楽にもみえる態度はこんな状況でも人に安心を与える。
渋々ながらも緑谷はオールマイトに背を向けた。

直後、夜月が蛙吹の肩に体重を預けながらボロボロの体を起こした。


「お前、あれで意識あったのかよ……!?」

「夜月ちゃん、無理は良くないわ」

「そうだよ瓦楽さん!! そんなにボロボロで……」

「しょうた、消太は!?」


三人の言葉を完全無視し、夜月は緑谷に迫った。
あの状況だったのだ。無事かどうか焦ってしまう。そのせいで彼の呼び方も昔のものに戻ってしまった。


「大丈夫だよ。酷い怪我で意識もないけど、まだ大丈夫」


緑谷の表情はどこか固かったが、それでも安心させるように笑っていった。
それに夜月も安堵し、体の力を抜いた。なんとか蛙吹に支えてもらいながら一人で立つ。

4人は相澤を支えながら入口へと歩き出す。
緑谷が不安げな顔でオールマイトたちのほうを伺いつつ足を進めていたが、途中でピタリと止まる。

全員の視線は自然とそちらに向く。
そこには、落ち詰められてしまったオールマイトの姿。


「蛙吹さん、先生運ぶの変わって」


彼女は不思議そうにしながらも、相澤を受け取る。
その途端、緑谷は一心不乱にオールマイトのほうへ走り出してしまった。


「おい、緑谷!!?」

「まずい……!!」


しかし、必死に呼び止めるも緑谷の耳には届かない。
緑谷は放せと飛び込み、黒霧に向かって飛ぶ。


「『加速』!!」


夜月が叫び、緑谷のもとへ向かう。
だが夜月がたどり着く前に、彼らは現れた。


「どっけ邪魔だ! デク!」


突如現れた爆豪は黒霧のとある部分を掴み、捕まえた。
オールマイトを掴む脳無は、轟の氷結によって動きを封じた。
切島が死柄木に攻撃をするが、空ぶった。


「くっそ!! いいとこねー!」

「スカしてんじゃねぇぞ、モヤモブが!!」

「平和の象徴はてめぇら如きにやれねぇよ」


切島、爆豪、轟の3人がヴィラン共に言う。


「かっちゃん! 皆!」


緑谷は希望が満ちたと瞳を輝かせる。その直後、彼らの後ろで腹部を押さえながら膝をついている夜月に気付き、慌てて声をあげた。


「瓦楽さん!? なんで!?」

「瓦楽ボロボロじゃねぇか! 大丈夫かよ!?」

「君が飛び出したんでしょ……切島も有り難いけど後にして!」


全く緊張感のない、と呆れ果ててしまう。
轟の個性により脳無の動きが緩まり、オールマイトは手を払いのけて生徒の前に立つ。


「出入り口を押さえられた……こりゃあ、ピンチだな」


死柄木は淡々と呟いた。全くそうは思っていないだろう口振りだ。
一方では、爆豪が黒霧を押さえつけながら嘲笑した。


「このウッカリヤローめ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる! 全身モヤの物理無効人生なら危ないっつー発想は出ねえもんな!」


その判断は粗野な言動に反して考えは理性的だ。
黒霧が動こうとするが、爆豪が手のひらで爆破させる。


「っと動くな! 怪しい動きをした、と俺が判断したらすぐ爆破する!」

「ヒーローらしからぬ言動」


切島が突っ込んだ。


「攻略された上に全員ほぼ無傷……すごいなあ最近の子供は。恥ずかしくなってくるぜ敵連合……!」


死柄木は更に指示を出す。


「脳無爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」


バキバキと禍々しい音が立つ。体を割りながらも脳無は黒霧のワープを抜けて、立ち上がった。
その姿はやはり人間ではない。個性の枠も超えている。


「皆下がれ!」


オールマイトが手で制する。
脳無が完全に体勢を立て直すと、目では負えない速さで走り出す。走り出したと思えば爆風。
なにも見えなかった――。


「かっちゃん!! って避けたの!? すごい……!」

「違えよ黙れカス」


いつの間にか緑谷の背後にいた爆豪。
爆風の先にはオールマイト。彼を庇い、自分がそれを受けていた。

死柄木は腕を広げ、演説を始める。


「俺はなオールマイト! 怒ってるんだ! 同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされ善し悪しが決まるこの世の中に!!」


彼の演説は理解しかねる。


「自分が楽しみたいだけだろ。嘘吐きめ」

「バレるの早……」


ニタリと彼は笑う。何処までも不気味だ。
緑谷や夜月を含め5人は身体を構える。


「三対六だ」


轟が好戦的に呟いた。


「ダメだ! 逃げなさい」


オールマイトが生徒達を制する。ヒーローにとって優先すべきは倒すべき敵より、守ること。
轟はオールマイトを一瞥する。


「さっきのは、俺がサポート入らなけりゃやばかったでしょう」

「時間だってないはずじゃ……あ」


ほろりと緑谷がこぼす。


「それはそれだ轟少年! ありがとな! 大丈夫、プロの本気を見てなさい」

「脳無、黒霧やれ。俺は子どもをあしらう」


同時に敵は向かってくる。


「おい来てる、やるっきゃねえって!!」


切島が構えながらそう言う。
しかし、敵はオールマイトと脳無の殴り合いに生じた竜巻のような風に動けなかった。それは生徒である彼らも同じく。

緑谷達が爆風に押され、体が下がっていく。
そんな中、夜月はなんとか立ち上がり自分らを守るようにバリアの壁を張る。そのおかげで多少暴風は免れる。


「瓦楽! バリアなんて張って平気なのかよ!」


切島は夜月の怪我を気遣ったのだろう。正直、かなりきついのである。
怪我も痛めば、個性の使い過ぎで内側からも攻められる。

弱っているせいか、暴風に負けてピシリと亀裂が入るバリア。即座に『再生』と叫び、修復される。
やがて暴風はやみ、脳無はオールマイトによって外へと殴り飛ばされた。
それに応じ、バリアは消える。


「さてとヴィラン。お互い早めに決着つけたいね」

「チートが……! 全っ然よわってないじゃないか!! あいつ、俺に嘘を教えたのか!?」


死柄木が苛立ったように睨みつける。
切島や轟は彼の力を目の当たりにし、援護など必要ないと悟る。即座に邪魔にならないようにとこの場から離脱しようと即した。
しかし、緑谷は動かない。死柄木がオールマイトに向かって走り出すと、緑谷もそれに応じ動き出した。


「な……緑谷!?」

「……っ! 危ないっ!!」


一瞬で移動した緑谷。すでに彼は飛んでいて、死柄木に殴り込もうとする。
しかしそこに黒霧が現れ、ワープゲートにより死柄木の手を目の前に出現させた。

それをよんでいた夜月は緑谷に向かって手を伸ばす。
なんとかあそこに壁を作れば、掴まれて崩壊することはなくなる。

だが、壁が作られる前に鉄砲の音が響いた。


「1ーA クラス委員長飯田天哉!! ただいま戻りました!!」


死柄木の手には銃弾がめり込み鮮血を散らす。
飯田の声が響いた。彼と共に登場したのは、何人ものプロヒーローたち。


「あーあ来ちゃったな……ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧……」


呟いた死柄木に銃弾の雨が降り注いだ。
足や腕に貫通し、血が流れていく。


「この距離で捕獲可能な個性は……」


ワープしようとした死柄木が黒霧ごと何かに引っ張られる。
十三号が床に這いつくばりながらも死柄木達を確保しようとする。背中に痛々しい傷を負いながらも決して個性を止めはしない。


「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ、平和の象徴オールマイト」


だがワープが完了する方が早かった。沈むようにしながら死柄木は声を響かせる。
最後に不気味な笑みを彼女に残して。


「せいぜい死なないようにな。次は連れてくよ、”二つ持ち”」

「……!」


黒霧と死柄木の姿は完全に消えた。
敵を退けることができたのだ。みんな、安堵の息をついた。

夜月はその場に割り込んだ。いや、座り込むというより膝から崩れ落ちたというのが正しい。
もともと、個性の使い過ぎと怪我などで限界だ。


「ゲホッ……っは……」


咳き込んだ夜月。だがそれは、血と一緒に出された。吐血をしていたのだ。
血の量は多くはないが、少なくもない。
流石に大変だと肝を冷やし、轟に続いて切島がすぐに駆け寄った。


「瓦楽!」

「おい瓦楽! しっかりしろ!」


焦りを露わにした二人。その後ろには爆豪がいる。表情は伺えなかった。
吐血を繰り返す夜月。意識も朦朧としている。


「っへいき。まだ、声は出……!」


一瞬、クラリとする頭。片手で頭を押さえる。

あぁ、使い過ぎた。これは酷い。と、そんな悠長なことを本人は思う。
二人は慌てに慌て、冷静ではない。

早く保健室へ連れて行こうと切島が言った。声はもうほぼ聞こえない。
そんな意識でいると、突然視界が一転し目線が上がった。

なんだ、と頭を押さえながらその正体を見ると爆豪に自分は担がれていたのだ。
爆豪がそんな行動に出るとは思わず、轟も切島も一時停止してしまう。


「血ぃかけたらぶっ殺すからな!」


そのまま彼の足は進んでいく。
どうやら運んでくれるらしい。

あぁ、なんだろう……”懐かしい”……?

朦朧とした意識を保つのはやめ、夜月は意識を手放した。