第3話
――IH予選前日。
いよいよ明日に迫ったIH予選。選手たちはいつも通りに練習に励み、コーチの話に耳を傾ける。
「俺からは以上だ今日は良く休めよ」
「「ハイ!」」
「よし! じゃあ これで」と澤村が終わろうとしたところで、武田の声が響く。
「あっちょっと待って! もうひとつ良いかな!? 清水さんと紫炎さんから!」
必然と清水と夜月に視線が集まる。夜月は平然としているが、清水は少し居心地悪そうに、そして恥ずかしそうにしていた。
「・・・・・・激励とか…あんま得意じゃないので」
2人は紙袋からごそごそと何かを取り出した。それをもって梯子を上り、二階と向かう。「せーのっ」と声をそろえ、2人はそれを下ろした。全員の視線が上を向く。広げられた黒い布には、大きく「飛べ」と書かれていた。
「こんなのあったんだ!」
「掃除してたら、見つけたから」
「それで綺麗にしたんです」
選手たちはそれを見て、目を輝かす。テレビで見たそれと同じだったからだ。
「うぉぉ! 燃えて来たァ!」
「さすが潔子さんと夜月! 良い仕事するっス!」
「「よっしゃああ! じゃあ気合い入れて――」」
その時、澤村が飢えにいる2人を見据えたまま「まだだっ!」と手で西谷と田中を制した。「多分、まだ終わってない」選手たちは改めて2人を見上げる。「・・・・・・が」そして、清水が小さく口を開いた。
「頑張れ」
少し恥ずかしそうに頬を赤らめて、清水は精一杯の応援をする。
それを聞き、3年と2年はぶわっと泣き出した。
「っ・・・・・・清水っ・・・・・・!」
「ッ・・・・・・!」
澤村はまるで親のようなことを言いだすし、西谷や田中に至っては言葉すら出ない。1年生はその様子に目を丸くして驚き、夜月は嬉しそうだなあ、と少々呆れたように笑みを浮かべた。
「夜月さん! 夜月さんからはないんですかっ!!」
「え?」
「――!! お願いしアス!!」
「え、いや」
「どんとこいっ! お前の分まで受け止めてやらぁッ!!」
日向からは欲しい欲しいと期待に満ちた目を向けられ、影山には頭を下げられる。西谷はまるでボールを受け止めるときのように、涙を拭って、大きく両腕を広げた。
これは言わなくてはいけない雰囲気だ。3年生からも他のメンバーたちからも視線を向けられる。烏養からは少しニヤニヤとした笑みを向けられる。なんだか居心地の悪さを感じた。
「あー・・・・・・今まで積み上げてきたものを全部出し切って、それで、えっと・・・・・・応援してます。頑張ってください・・・・・・」
こんな激励を贈るのには慣れてない。後半になるにつれ恥ずかしさがこみあげてきて、少しばかり頬を染めて、夜月は精一杯の言葉を紡いだ。
「夜月ッ・・・・・・おまえ・・・・・・ッ!」
「お前の想い、受け止めたぜ・・・・・・ッ!」
「あざーッス!」
「あざッス!!」
田中は再び涙ぐむし、西谷は真剣な声色でそんなことを言う。日向や影山は嬉しそうに頭を下げた。
ああ、恥ずかしい。この空気感から逃げ出したいと思う。そして、こんなにも温かいチームにいれたことに、心から感謝した。
「一回戦勝つぞー!!」
「「おおーっ!!」」
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