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色変わり金平糖


 オーエンを半ば強引に連れ出したクララは、オーエンを箒の後ろに乗せて隠れ家へと返った。箒で空を飛びながら帰っている最中、オーエンは目をきらきらと輝かせて感嘆の声を漏らした。初めて空を飛んだ感覚に感動しているみたいだ。その様子を盗み見て、クララもオーエンが笑顔になったのがうれしくてクスリと笑みを零した。

 速度を緩めてふわふわと箒で飛んでしばらく経つと、ようやく隠れ家が見えてくる。クララの隠れ家は、北の国と西の国の境目にひっそりと建つ一軒家だ。西と北の国の境目にいるといっても、どちらかというと北の国寄りにあり、辺り一面は一年中変わらず雪に覆われて、色とりどりの草木はない。あるのは雪のなか丈夫に聳え立つ樹木くらいだ。それなりに開けた土地に立つ家は全く隠れているとは言えないが、傍の樹木や魔法による結界や幻惑によって隠れ家として成立させている。

 隠れ家に到着して、クララはまずオーエンをお風呂に入れさせた。薄汚れた衣類を脱がせ浴室に入れさせ、清潔な水を魔法で温めて、同じく魔法を使ってオーエンをあっという間に綺麗にしていく。泥で汚れた肌は雪のような白い肌をみせ、汚れでくすんだ髪も指通りの良いさらさらとした髪を取り戻し艶やかな灰色の髪となった。綺麗に洗い終えれば、少しだけお湯に浸からせて身体を温める。のぼせる前に上がらせれば、濡れた身体や髪の水分を魔法で拭って、急ごしらえの服を着させる。身なりを整え終えたオーエンをじっくりと上から下まで見定めて、クララは満足そうに微笑んだ。

 それが終われば次は食事だ。クララはオーエンの手を引いてリビングに移動する。オーエンを椅子に座らせて、すぐに温かい食事を魔法で作り始める。食材や食器を浮かせ手際よく食事を作っていき、温かいスープや温かいご飯を次々と完成させる。それらをオーエンの目の前に置いてどうぞ、と促せば、オーエンはぎこちなくスプーンを持って、ゆっくりと口に運んだ。口に含んだ瞬間、赤い瞳が輝き、頬が緩んだ。途端、オーエンは空腹を思い出したかのようにパクパクと次々に口へ運んでいく。そんなに急がなくてもご飯は逃げない、と笑いながら口をはさんで、目の前で美味しそうに食べるオーエンをクララは微笑ましく眺めた。その間も魔法で何種類もの食事を作っては、オーエンの前に置いて行く。小さな口で頬いっぱいに含らませてそれらを平らげていくオーエン。意外にもオーエンは大食いみたいだ。様子を見て、最後にデザートを出す。生クリームいっぱいのベリーとジャムの甘いケーキ。それを食べた時のオーエンが一番目を輝かせていた。


「甘いの好き?」
「うん! 甘いの美味しい、好き!」


 美味しそうに頬を緩ませながら、オーエンは頷いた。


「アタシも甘いの大好き。一緒だね、オーエン」
「一緒・・・・・・クララとお揃い!」


 オーエンは一層嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。

 それに釣られるように、クララも一層満面な笑顔を見せた。

 食事が終わり、後片付けも済ませば、外はもう真っ暗だ。意外にもあっという間に時間が過ぎ去っていた。今日はもう眠ってしまおうとオーエンを連れて二階へ上がる。

 二階には自室があり、ちょうど空き部屋もある。そこをオーエンの部屋にしようと連れていき、好きに使っていいと言えば、オーエンは興味津々に部屋を見渡した。ちょうどベッドもすでにあることだし眠るのに困らないと口を零せば、オーエンは目を丸くしてこちらに向き直る。どうやらオーエンは一緒に眠るものだと思っていたらしい。ひとりで眠るのは嫌だと顔をゆがませたオーエンに、なら一緒に寝ようと言えば、すぐさま花が咲いたように笑顔を見せてくれる。

 オーエンの部屋を後にして隣のクララの自室へ向かう。空き部屋だったオーエンの部屋とは違い、クララの部屋は生活感がある。クローゼットや鏡、壁の棚にはレシピらしき本が乱雑に終われている。机にちょこんと置かれたカラフルな飴玉が入った瓶詰が綺麗で、オーエンはそれに吸い寄せられた。瓶に入った飴玉はどこか不思議で、とびきり甘そうで、宝物のようにきらきらと輝いて見えた。

 オーエンが瓶詰めに気を取られている間に、クララは魔法で寝間着に着替えたり結った髪を解いたりと寝支度を整え終える。オーエン、と呼べばとたとたと裸足の足音を立ててベッドへ駆け寄ってくる。先にオーエンをベッドに入らせ、次にクララがベッドに滑り込み、ふわふわと柔らかい布団をお互いの肩までしっかりと掛ける。ふたりの体温で徐々に温かくなるベッドの中、向き合うように横になってじっとお互いを見つめた後、ふたりしてフフッと笑みを零した。


「ねえ、クララ。クララはずっとひとりで暮らしてるの?」


 唐突にオーエンが聞いてきた。そうだよ、と頷けばオーエンはへえ、と感心するような声を零す。「クララは僕よりも小さいのに凄いね」なんて言うオーエンに目をまくるしたあと、少し吹き出すように笑った。確かにオーエンの言う通り、容姿で言えばオーエンより少し幼い子供か同じくらいに見えるだろう。しかし魔法使いは必ずしも年齢に相応しい見目をしているわけではない。一般的に魔法使いは、魔力が成熟すると身体の成長も止まってしまうのだ。魔法で見目を変えている人もいるが、基本的には魔力が成熟した時の見目をしている。クララがオーエンより幼い見目をしているのは、つまりこの年齢の時に魔力が成熟したということだ。だから実際にはオーエンよりもずっと年上なのだと言えば、オーエンは目をぱつぱちと瞬かせて驚いた。どれくらい年上なのかと問われ、四百歳だと答えるいまいちどれくらいの大きさか分からないオーエンに、今のオーエンの四つ分くらいだと答える。それにさらに驚いたあと、オーエンは表情を沈めた。「さみしくない?」眉を下げて聞くオーエン。クララはニコリと笑って首を横に振った。


「今はオーエンがいるから寂しくないよ」


 目を白黒とさせたあと、ふにゃりとオーエンは笑う。


「うん! 僕も、クララがいるからさみしくないよ」


 ふふ、と笑って擦り寄るようにしてベッドの中で距離を詰めた。小さな手でお互いの手をギュっと握り、寄り添うように額と額をくっつける。どちらも人間の生涯よりも永く生きている魔法使いだが、その様子はまだ何も知らないただの幼い子供そのものだった。


「おやすみなさい、オーエン」
「おやすみなさい、クララ」


 ふたりはそっと瞼を下ろした。