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タカラモノ・シュガー


 クララが魔法舎内を出歩くようになってから数日が過ぎ去った。

 初めはオーエンの傍からは片時も離れず、離れるときはキッチンを借りてお菓子作りをする時ぐらいで、ふたりはいつも一緒に行動していた。オーエンは自分の知らない間にクララが勝手に行動することを嫌ったし、クララもオーエンから離れようとしなかった。完全に誰も立ち入らせないふたりの世界を形成していたが、そんななか子供たちは懸命にクララとの交流を図った。

 リケやミチルは魔法舎の住人の中で一番積極的に声をかけていて、どうにか仲良くなろうと、クララの姿を見つけるなり無邪気に駆け寄った。具体的になにをしているのかと言うと、会話は勿論のこと。他を挙げるのなら、たとえば、魔法舎の案内をしたり、賢者の魔法使いたちの紹介をしたり、中央の国に出かけた帰りにお土産を贈ったり。ふたりはクララが千年以上生きている魔女だということを知らない。ただの人間で自分たちよりも幼いクララを助けてあげなくてはいけない、と思っているのだろう。クララは他人に興味を示していないが、特別リケやミチルが嫌いというわけでもなく、むしろ健気に優しく構ってきてくれるふたりを可愛いな、と心の中で思っていた。無下にはせず、素直にその善意を受け入れた。

 その様子を傍で眺めていたオーエンは不満だった。

 オーエンの記憶のなかでは、物心ついたころからクララが居た。自分とクララ以外に誰かは居なかったし、自分にはクララだけが居て、クララにとっても自分だけが居た。ずっと一緒にいたふたりのなかに他人が踏み込むことは、今までに一度もない。しかし、今はどうだろう。本当は魔法舎になんて連れてきたくはなかった。けれど自分は嫌でも此処に滞在していないとならないし、クララをひとりにさせておくこともできない。自分以外の他人に関わらせたくないからずっと部屋に閉じ込めておきたかったのに、そうすると周りが煩く、強硬手段に出される可能性もある。そうして不満ながらも外へ出してみたらどうだ。こうやって、みんながクララに構う。みんながクララに声をかけ、会話をして、交流を持とうとする。自分という存在しか居なかったクララのなかに、他の誰かが入り込んでくる。それが嫌で嫌で仕方がなかった。

 会話を続けるクララたちをながら見て、生クリームいっぱいのトレスレチェスを頬張る。

 クララの作るお菓子は、ネロが作るお菓子よりも甘くて美味しい。長年かけて好みを把握し、自分だけのために作られた特別な甘いお菓子。そう、このドロドロに溶けるくらい甘いお菓子は、自分のためだけに作られた特別なもの。自分だけのものなのだ。

 もう一度、ケーキを頬張る。贅沢に盛られた真白な生クリームが、舌にねっとりと絡む。クララの甘いシュガーを規定量よりたくさんに入れられて作られたそれはに、思わず舌がとろけそう。


「僕、クララの作ったお菓子が食べてみたいです」


 ぴたり、動きを止めた。

 少し前のめりになっていた身体を上げ、盗み見るように視線を向ける。少し遠くにいるクララたちと視線が交わることは無い。左右で色違いの瞳が、静かに彼らを見つめた。

 その要望に、クララは首を振った。


「アタシのお菓子は、オーエンのためだけのお菓子だから」


 ふんわりと、なにかが満たされた。
 残念そうに項垂れたリケやミチルを見て、口角が上がる。


「そうだよ」


 にこりと笑みを浮かべるオーエン。

 少し離れたところに座ってケーキを食べていたオーエンが、いつの間にかクララの背後にまわっていた。小さな身体をやんわりと抱きしめるように両腕をお腹にまわし、身をかがめてクララの頭の上に顔を乗せる。まるで気に入ったおもちゃを独り占めする子供のようだった。


「これは僕だけのお菓子なんだ、きみたちにはあげないよ」


 ――これは僕だけのモノなんだから。