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純愛なんて知らないから


 ――自分の異変に気づいたのは、それからしばらく経った後だった。


「あれ・・・・・・?」


 それは日課のお菓子作りをしている最中に違和感を覚えた。お菓子作りをするときは、大抵魔法を使って作っている。手作業で作ることも可能だが、手間を考えると魔法で浮かして作ったほうが早い。お店に出す分とオーエンが食べる分を作るのは、それなりに大変なのだ。いつものようにボールや小麦粉やらを浮かして、指をくるくる動かして混ぜたり型に入れたりしているが、なんだかいつもと違う。少し、やりにくさを感じた。とはいっても、はっきりとどう違うのか言い当てることはできない。感覚的に違うと脳が判断しているにすぎない。この時は深く考えずに、そんなときもあると流していた。

 しかしその違和感が消えることは無く、日に日に以前とのズレが増していくばかりだった。それは少しずつ違和感を膨張させていく。今まで魔法を使って作業をしていたお菓子作りや食事の調理、店内や住居の掃除が、上手く進まなくなった。なにがどう上手く行かないのか尋ねられても、結局のところ答えることができないのだが、明らかに違うのだと身体が感じていた。

 増していく違和感をなんでもないように流すことができなくなっても、どうすることもできない。魔法使いには、ひとり一人に魔力を高めたり安定させたりするための、心の拠り所としている場所や原風景を所有している。これをマナエリアという。またマナエリアと同じ効果を持つアイテムであるアミュレットを持ち歩く。クララの場合、マナエリアは此処『お菓子屋クラリッサ』であり、アミュレットは飴玉を詰めた瓶だ。アミュレットは自分の部屋に安置してあり、常にマナエリアに居るにもかかわらず、このような事態に陥っているのだ。手の打ちようがない。何度かオーエンに相談してみようとしたが、余計な心配を掛けたくないし、自分でも何がどう変なのか説明できないため、なにも言えずに時間だけが過ぎ去っていく。

 そうやって何日も経ったあと、帰ってきたオーエンが訝るように言った。

「ねえ、外の結界が弱ってたんだけど」
「え?」


 目を丸くして後ろにいるオーエンに振り返れば、オーエンは首で窓の外を指すような仕草をする。

 住居であるここ一帯には、安全を確保するために守護結界を張っていた。結界と言っても大層なものではなく、害あるものを近づけなかったり、魔法使いから気配を察知されないように身を隠す程度のものだ。それでもある程度の魔法使いなら容易に見つけられてしまうし、完全に結界を張ってしまったらお店にお客が入れなくなってしまう。

 もとから弱いものであったが、オーエンはさらに微弱になっていると言う。自分では全く気付かなかったが、オーエンが言うならそうなのであろう。伝えてくれてありがとうと言って、あとで張りなおしてみると告げると、オーエンはもう張りなおした、と続けた。どうやら帰ってくる前に張りなおしてくれたらしい。改めてお礼を言うと、オーエンはこちらを観察するように視線を投げかける。


「おまえ、大丈夫なの」


 薄ら笑いも浮かべず、真顔でこちらをうかがう。両眼が冷静に見つめていた。

 クララは逃げるようにそれから少し視線を逸らし、心配をかけないように笑いながら答えた。


「うーん・・・・・・まあ、大丈夫だよ」
「・・・・・・」


 表情を変えずにいまだ両眼を向けてくるオーエンに困ったように眉尻を下げた。「心配しないで、オーエン」それを聞くと、オーエンは不愉快そうに眉根を寄せてムスッとした表情を浮かべる。「心配なんてしてないよ」勘違いしないで、と素気なく言い捨てられるが、気にしていないクララはニコニコ笑うだけ。

 オーエンはそれが気に食わないと思う反面、どこか誤魔化されていると感じていた。