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Act.49




翌日、パルス軍はラジェンドラが送った三千の兵を加え、ペシャワール城塞に向けてシンドゥラを出た。
日が暮れてくるとナルサスの進言により、すぐに近くで陣を張り一晩過ごすこととなった。

その夜である。

ジャスワントは馬に乗ってアルスラーン率いるパルス軍を追った。ラジェンドラの卑怯な策略を告げるためである。
陣の近くまで来ると、そこには待っていたと言わんばかりにナルサスが待ち受けていた。


「ジャスワント、殿下やスーリに恩を返しに来たか」

「……あぁ。だからこそ、あの方の卑怯な策が許せないのだ」

「ラジェンドラの策か……」


知っていたかのように呟くナルサスに、ジャスワントは驚きを見せた。
ナルサスの中にあった一つの可能性。それはジャスワントによって真となった。


「殿下やスーリに恩を返すつもりなら、どうだ、少し手を貸してはくれぬか」

「……承知した」


こうしてジャスワントを加え、ラジェンドラの策に対抗すべくパルス軍は動き出した。
そんなことを知らず、罠の合図を受け取ったラジェンドラとその兵は馬をかけて突入してくる。罠と確信した時には、既に遅し。

陰に隠れていたダリューンがラジェンドラに刃を向け、猛々しく言葉を放つ。


「シンドゥラの横着者め! 貴様との奸計はすでに崩れた!」

「クソ……ひけ! ひけ!」


ラジェンドラが叫ぶと、陣に隠れたパルス軍が姿を現し、月明かりの下で剣が交わった。
ラジェンドラが吐く場で逃げようとすると、それをギーヴの剣が止めた。


「うちの軍師殿には全てお見通しだ。知恵者づらは、シンドゥラの中でだけでやるんだな」


それでも逃げおおせるラジェンドラ。次に立ちはだかったのはファランギース。
前後をふさがれ、ラジェンドラは戯言を吐いて剣を落とした。


「ラジェンドラ殿……」

「……」


馬に乗って現れた、アルスラーンとスーリ。
アルスラーンは悲しそうに、スーリは予想していたようで。

ラジェンドラは隠し持っていた刃をアルスラーンに向かって投げたが、それはジャスワントによって弾かれる。


最初に会った時のように、ラジェンドラは縄で縛りあげられ、二人の前に座らされた。
アルスラーンはラジェンドラに言う。


「貴方にはパルスに滞在してもらいます。そうですね、二年ほど」

「二年か。それは楽しめそうだな」


吐き捨てるラジェンドラ。
しかし、アルスラーンやスーリの背後からナルサスが歩み寄ると真っ青な顔をした。

ナルサスが言ったのは、隣国に使者を送りこのことを告げる事。それが嫌なら、さらに盟約を作り、三年の不可侵条約を結ぶこと。


「あぁ、誓う! 誓えばいいんだろ、誓えば!!」


そうせざる負えないラジェンドラは出されたものに名を記入する。
目の前にいる三人は満面の笑みだ。


「はぁ……」

「では、三年間の不可侵を決して破らぬように。ラジェンドラ殿」


笑みを浮かべるスーリはラジェンドラにそういう。
ラジェンドラは盟約を結んだことにより、祖国へ帰れることとなった。馬に乗り、この場を去る間際に、何を思ったのか彼はスーリに振り返った。


「スーリ、この前はフラれたが、俺の隣の座は空席にしておく故、パルスに愛想が尽きたらいつでも来るがいい」

「なっ!? 貴様!!」

「……」

「ははは!」


声をあげたのはダリューンで、当の本人は無言でやれやれと目をそらした。

あの男……ああいってっも諦めないとは。
スーリは溜息を吐く。

ラジェンドラの姿が見えなくなると、ぽかんとしていたアルスラーンがスーリに言う。


「ど、どういうことですか、姉上」

「ただの戯言よ。気にすることはないわ」


スーリがはっきりと言うと、アルスラーンもそれ以上は聞かなかった。
しかし、その後ろでは各々が声をあげている。


「ラジェンドラめ……姫様にあのような……。次に会ったら八つ裂きにしてくれる!」

「賛成だ、ダリューン。あのような男に、可愛い妹分が汚されては困る」


ゴゴゴ……と怒りの炎を纏う二人を、エラムとアルフリードが少し遠めから眺めた。
そのまた向こうでは、


「あの王子め、俺のスーリ殿に求婚をするとは」

「お主のモノではないが。だが、スーリ殿があのような男にわたるのは阻止したいものじゃ」


少しの間、みなラジェンドラの言葉にあれこれ言っていたが、ジャスワントが現れると口を閉ざした。
彼はスーリとアルスラーンを見つめていた。二人は一歩前へ出て、同じく彼を見つめた。


「俺はシンドゥラ人です。もし、パルスと故国が戦うこととなれば、俺はシンドゥラにつきます」

「お前……」


後ろのギーヴが言葉を零す。


「ですが、俺は三度にわたってあなた方に命を救われた。このご恩を返すまで、あなた方に忠誠を誓わせてもらいます」

「えぇ、ありがとう、ジャスワント」

「よろしく頼む」


アルスラーンとスーリは嬉しそうに微笑み、快くジャスワントを向かい入れた。


こうしてジャスワントを組み入れ、再びパルス軍はペシャワール城塞へ向かうこととなる。
王都エクバターナの奪還を目指して。




一方、アルスラーンたちがそういている間、サームはアンドラゴラスと面会しとある真実を知ることとなった。その後、ヒルメスはザーブル城を堕とし、そこに居座っている。

彼らが再び巡り合うのも、そう遠くない――。


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