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- ナノ -

Act.12




目の前には赤が広がっていた_。


宮殿_?

そこは赤い炎で包まれていた。


熱い、熱い、あつい…。


それは燃えていたエクバターナのように。

赤く、あかく…炎は業火のごとく燃え盛る。


どこ…ここはどこ__。

知っている。この光景を知っている。
憶えている。覚えている。

この光景は__。


「__っ!」


目が覚めたスーリは大量の汗を流していた。
べっとりとする感覚が気を悪くする。


「はぁ……はぁ……」


起き上がり、周りを見渡す。


そうだ、ギーヴと逃げ出して_。


そこで隣にギーヴが眠っていることに気付いた。
どうやら手をずっと握っていてくれたようだ。

スーリは起こさぬようにそっと手を放し、駆けられたマントをギーヴに掛けなおす。

空き家の隙間からは仕込む日差し。


アルスラーンを探さなくては…。


スーリは物音をたてぬように立ち上がり、出発の準備を進めた。

ふとギーヴを見る。

巻き込むわけにはいかない。
だから一人で行くのだ。

剣を腰につけたことを確認し、眠ったギーヴに近寄り耳元で小さく囁く。


「今までありがとう、ギーヴ。自由な良い旅を…」


せめてもの礼をするため、首に掛けた首飾りを握っていてくれた手にそっとおく。

売れば金になる。
こんなものしか送れないが、せめて…。


スーリは静かに戸を開け、その扉を閉じた_。




空き家にはかすかにスーリが足早に移動をする足音が聞こえる。

音が聞こえなくなると、目覚めていたギーヴは起き上がった。
手には首飾り。


行ったか…。
大方、迷惑はさせまいと言ったのだろうが…。


手の中にある首飾りに目を落とす。

売れば金になる。せめてもの礼のつもりか。

耳には囁かれた声が今も残っている。
あの美しい音色のような声。


「フ……」


どうやら自分が思っていたよりも、あの御方を気に入っていたようだ。


「逃げるものほど追いかけたくなるのは男の性分だ。なぁ…?」


ギーヴは一人、ニヤリと笑った。


さぁ、あの御方を追いかけよう。

あの美しい一輪の花を__。


-12-


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