祈りの詩と死



音を創り出す人物は、どうしてこうもおかしな奴ばかりなのだろうか。
現に、俺の足元で情け無く「インスピレーションが湧いてこない」「もう曲を作れない」と狂ったように泣き叫んでいる、王様という肩書きとプレッシャーだけを纏った唯の同級生がいるのだから。


月永レオが作曲出来なくなったのはいつ頃だったろうか。輝かしく騎士達の群れに彼が帰還してからまだそれ程時間は経っていないように感じる。

お前はknightsのリーダーとして、アイドルとして舞台に立ち続けてくれるだけでいいんだよ、そんな言葉をかけてもきっと彼は納得していないのだろう。

それでもknightsを捨てられない可哀想な王様は自分を犠牲にして音楽を殺した。




月永レオは作曲活動を辞めたのだ。








「助けて欲しい」

今にも泣き出しそうなお天道様を教室の窓から見つめながら俺は少し離れた音楽科棟にいる友人に助けを求めた。発せられた自分の声はあまりにも冷酷で、何処か客観的過ぎる淡白なものだった。矛盾してばかりの胸の中は不安と孤独と哀しみで溢れているというのに。

表に出すまいと空を仰いで葛藤する。なのに灰色の重たく分厚い雲は俺になんか興味が無いように早々と流れていってしまう。
こんなにも格好悪い姿の騎士なんて未だ嘗て居ただろうか。せめて泣くまいと強がって歯を食いしばる。


knightsにとってこれは二度目の危機であろう。
一つ目は、皇帝に我々騎士達が敗れたあの瞬間。俺達が多くの仲間を亡くし犠牲にしたあの時だ。そして王は折れた。
それから、プロデューサーの出現を機に好転したと思っていた俺達もまたこのザマである。神は見捨てた。


二度目の危機、これは二度目の王の絶命を意味する。


「泉」

突然現れた男を目前に、名前は無表情で項垂れる俺を見下ろしていた。名前を呼ばれるも声を発する事の出来ない俺と彼女を繋ぐのはただただ居心地の悪い沈黙で、堪らず息を深く吸えば遠くの方で稲妻が光った。


「私が月永レオの代わりにあんたのグループに曲提供すれば良いってこと?」

俺と変わらない名前の、淡白で単調な声音が上から降り注ぐ。
ゆっくりと見上げれば、己よりも幾分深く濃い色をした藍色の瞳が真っ直ぐ、情けない騎士の姿を写したかと思えば射抜いていった。

「そういう事だよね?」

冷たい冷たい雨が降り始める。
窓を打ち付ける水滴は容赦が無くてまるでそれは自分達をそのまま写しているようだった。

「まあ力になってあげてもいいよ」
威圧感の塊であったその存在が、俺と同じ目線になるように膝を屈めた。そしてまたその藍色の瞳で真っ直ぐ俺を見つめる。

「もう泣いていいんじゃない?」
そう言って此方に伸びてきた真っ白で陶器のような美しい手が自分の手を包んできた時、今度こそ俺は声を出して泣いた。