傘下の花
雲ひとつないくらい晴れきった日。
ハイヒールの音を高らかに響かせ苗字は米花町通りを牛歩のように歩いていた。
ギラギラとした太陽光が辺りの建物に満遍なく降り注いでは甲斐もなく跳ね返されている。
先程まで灰原哀とファーストコンタクトを取っていた苗字は、灰原から聞き出したアポトキシンの成分を兄・遥の友人である研究者にデータとして纏め、送らなければならなかった。
遥に成分一覧を口頭で言うから研究者の人に伝えておいて、と電話をした所「自分で伝えやがれ」と虚しくも回線を切られたのだ。相も変わらず物騒で面倒臭い兄に舌打ちをかましながらも仕方が無いと研究者のアドレスへメールをする。
割とハイペースで黒ずくめの組織構成員詳細を割り出した苗字は早速組織壊滅後のイメージもしていた。
しかし極秘調査の依頼主は工藤優作である。
任務遂行をするにあたり最も重要なのは構成員を捕らえる事では無く江戸川コナンを工藤新一の姿に戻すこと。その為には幼児化した原因の解毒作用がある薬物を開発する必要がある。
そこに重点を置いた苗字は先程顔を合わせた灰原哀と兄の友人である研究者で協力してもらい解毒薬を開発することを提案した。
灰原哀程の力量があれば、この案件も割とスムーズに進むだろう。
次に問題になってくるのはやはり組織そのものの存続。
組織壊滅する前に、幼児化したはずの工藤新一と宮野志保の存在が構成員にバレると厄介だ。
薬の開発と同時進行で構成員を捕らえていき、内部人数を確実に減らしていく必要がある。
「暑い」
苗字は真面目に自分の遂行すべき任務について立ち止まって考えていると、容赦無い日差しと知恵熱で身体から蒸気が出そうになった。
体力が奪われかけていることに気が付いた彼女は、近くに喫茶店ポアロがある事を思い出し、再び歩きだした。
「暫く登庁勤務って言ってたから降谷さんも居ないだろうしアイスコーヒーでも飲んで休もうかな」
大きな扉を開けると、その先には知らぬ間にシフトを入れていた上司が居るとは思いもしなかった苗字はカウベルを高らかに鳴らしながらポアロへと足を踏み入れた。
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