ひたすらなまでの愛は人を生かし魂を潰す。其を知る者は果たして存在するのだろうか、或いは其を実行してしまっている人はいるのだろうか。
つまりは、行き過ぎた愛情。恐ろしく一方的な感情。相手の心情なぞ何一つ知らない、愛。
「君のことが大好きなんだ」
「あっそ」
「どうして君はいつもそんなにつれないんだい?」
「嫌いだから」
何度も幾度も言えども、相手は此方の言い分を何一つ聞かずに自身の想いのみを述べ続ける。相手は知らない。それが報われない恋心だということも。
「それに、私には好きな人がいるから。貴方じゃ私を愛せない」
冷たく、なるべく相手が傷付くように、何より諦めてもらうように言い切る。だというのに。
「それはどういう意味?」
だんっ。背中から壁の冷たさがじわりと染み入る。横にある相手の掌の震えを見逃すことはしない。だからこそ、溜め息一つ。
「このやりとり、何度目? いい加減、うんざりなんだけど」
「それはこっちの台詞だよ。君が僕のことを好きになればいい話じゃないか」
「それこそ無理な話ね。貴方みたいな、他人の感情を全部無視する自己中心的な人に愛されたくはないし、何よりそんな貴方を愛する人なんていやしないわ」
相手の顔が、眉が、瞳が、歪む、歪む。醜態とはこのことか。
「何を言っても何をしても無駄よ。貴方が自分から気付かない限り、貴方を愛する人は現れない」
掌のない反対側からするりと抜け出す。微動だにしない相手を省みることはせず、その場を去る。僅かに良心が痛むが、それ以上にすっきりしてしまった。
残された相手の心情なぞ、知る気もなく。
(H22/3/30)