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前世の話


ここ、天照学院は人間と妖怪とで構成されている。
前者は前世を持ち、後者は前世を持たない代わりにその妖怪特有の能力を持つ。
高等部一年星組所属の鍋島たんぽぽは、そのどちらにも属さない亜人と呼ばれる人種だった。
亜人とは、前世を持たない代わりに異能を持つ人のことで、本来ならば西京学園という亜人専門の学校に通う。
しかしたんぽぽは異能を持ちながらも基準値に届かず、不合格の烙印を押されてしまったのだ。
そういうわけで、前世を持たず、かと言って完全に亜人とも言えない半端者としてたんぽぽは天照学院で日々を暮らしていた。

その日々の中で、時折前世の話になる。
前世を持っている人が多く集まるのだからその話題は当然とも言えるが、たんぽぽには少し苦痛だった。
自分には前世がない、人ではない。ということを突きつけられているように思ってしまうのだ。
せめて異能がもっと格好いいものだったらそんなことは気にならなかったかもしれないが、生憎とたんぽぽの異能は「アホ毛が感情によって動く」とあまりにもしょぼい。

考えると余計に頭がいたくなった。
軽くため息をついて、なにも考えないよう机に突っ伏す。
しかし考えないようにすればするほど、沼にはまっていくようにクラスメイト達の前世を思い出してしまうもので。
リリーは誰かの妻だったらしい。
玄風君は狐の神様だったらしい。
陽子ちゃんと津吹君はよく覚えてないけど、微かには覚えてるみたいだった。
そして次に思い浮かべるのは、家族達。
桜兄は想い人と一緒に寿命を全うして、菊兄も桜の下で恋人と一緒に寝たりした記憶があるらしい。
母さんは昔も忍者だったようで、自分の曾祖母。
父さんは平凡な人だったとか。

思い浮かべられるだけ思い浮かべてしまって、今度は重くため息をついた。
一体自分の前世はどんな人だったんだろう。とたんぽぽは思う。
重い過去なのか、それとも楽しい人生だったのか、どんな性格をしていたのか、どんな髪色で、どんな目の色だったのか、想像は尽きない。
しかし亜人はどうやっても前世を思い出すことはない。
だからこそ考える事はバカらしいと分かってはいつつも、ついつい考えてしまう。

「(いったい僕の前世は、どんなものだったんだろうか)」

恐らく一生知ることの出来ない前世に期待の混ざった想像をしながら、たんぽぽは休み時間の終わりを告げるチャイムに身を起こした。

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