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害虫駆除


荒川城塞でも特に人気ない路地裏。和乱はそこに呼び出されていた。しかし和乱は誰に、と聞かれても答えられず、なぜ、と聞かれても答えられない。なぜなら家のポストに入っていた手紙には

『今夜23時55分に荒川城砦の一番人通りの少ない場所で』

としか書かれていなかったからだ。
見るからに怪しすぎる手紙だと言うのに和乱がここに来たのは、恐らくどこかで何かの恨みをかってしまっていてこれからボコボコにされるんだろうと期待していたからだ。常人なら嫌がることも、和乱にとっては全てが快楽なのである。余談だがそのせいで友人はほとんどいない。
待ち合わせの時刻まであと30秒。未だ手紙の送り主は現れない。と言ってもこのまま現れなかったとしても、和乱は放置プレイとして受けとるので何ら問題はないのだが。
時計を見ながらわくわくして和乱はその場から動かずに待つ。あと3秒後から放置プレイの始まりだ。

「さーん!にーい!いーち!」

ぜろ、とカウントする直前。和乱の心臓に突然、穴が開いた。
それと同時につい1秒前までは誰もいなかった和乱の目の前に、男が銃を構えたまま突っ立っていた。銃からは煙が伸びており、彼が和乱を撃ったのは明白だ。

「え……あれ……、な……んで」
「何で?それって、何で殺されたのか分かってないってこと?それはね、翡翠ちゃんの回りをうろちょろしてベタベタしてるみたいだったから!翡翠ちゃんも迷惑そうだったし、俺も迷惑だし、殺されて当然でしょ?あ、それとも俺が何で突然現れたのかって?それはただの異能だよ!」

べらべらと笑顔で喋る男からは今しがた和乱に致命傷を負わせたという罪悪感は全く感じられない。その程度の理由でも本当に心の底から『当然でしょ』と思っているらしい。
普通ならばそんな理由で殺されてはたまったものではないし、憎悪すら感じるものだ。しかし和乱は嬉しそうに口角をつり上げて笑みを浮かべていた。

「よ……かった……、そん……な理……由で……」
「はぁ?」

それだけ言い残して、和乱の目から光が消える。取り残された男、京紫にはその言葉の意味は理解出来なかったが、そんな事は忘れてすぐに晴れやかな顔へと戻った。

「うん!これで悪い虫の駆除は終わりっ!」

荒川城砦では死体がほったらかしにされている、ということは日常茶飯事とまでは行かないまでも一ヶ月に何度かはあるものだ。もし誰かが見つけても大きな騒ぎにはならない。その事を充分に理解していた京紫は和乱の死体をそのままに放置して背を向ける。
明日から愛しい彼女の周りをベタベタとくっついてくる悪い虫はいなくなる。そう考えると本当に良いことをしたと思うし、心も晴れやかになっていくというものだった。鼻唄を歌い小さくスキップをしながら、京紫は自宅へと戻っていった。

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