絶対条件
「えー!?フっちゃったのぉ!?」
女子特有の高い声でクラスメイトは叫ぶ。おそらく彼女は叫んでいるとは全く思っていないだろう。雪花は特にそれを気にした様子もなく、短く肯定しながら頷いた。それに対してクラスメイトは興味半分純粋な疑問半分で、雪花を問い詰めようと身を乗り出す。
「あの人校内一の人気者よ?かっこいいし、性格良いし、頭良いし、運動できるし、将来有望だし、完璧じゃない!何が不満だったのよ?」
クラスメイトは雪花に告白してきた少年の良い所をつらつらと上げたてた。その特徴から読み取れる事は、どの学校にも一人はいる、ある意味月並みだが、校内で最も人気な好青年。普通の女子ならば既に好きな人がいない限り、少しでも興味が湧くだろう。しかし雪花は考えることもなく、一秒の間も空けずに断った。ここまで好条件で何が不満なのか。雪花からは特に好きな人がいると言う話も聞いたことがない。クラスメイトには全く検討がつかなかった。
雪花は困ったように微笑みながらだって、という言葉に続ける。
「あの人がオジサマにはなるのは、まだまだ先でしょ?」
その言葉に、どんな理由があるのか、もしや自分に知らせていない好きな人がいるのか、と推測しながらわくわくしていたクラスメイトは、目眩がした。
「あー……、雪花のオジサマ好きは筋金入りなのね……」
前々から雪花がオジサマ好きだったのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかったらしい。年齢がダメ。それだけの理由でフるなんて勿体なさすぎる。
しかし雪花にとっては『それだけで』ではなく『それゆえに』なのだ。雪花にとってそれほど年齢というものは大切で、交際するに当たっての必須条件なのである。
「そうねぇ。あと三十年……最低でも二十年経たない限り、付き合おうとは思わないかしら」
「その頃にはもう結婚してるでしょ」
「それが?」
呆れた様子でクラスメイトは雪花にツッコミを入れる。しかし雪花は平然と、それが何の問題でもないように言った。この発言についにクラスメイトは開いた口が塞がらない状態になった。それも当然。雪花はさらりとその気になったら、人の夫を横取りすると宣言したのだから。
クラスメイトが呆れて黙っていると、雪花は頭に疑問符を浮かべて、どうかしたの?と小首をかしげる。それでようやく我に返ったクラスメイトは大きくため息をついて、真剣な声で言う。
「あんた、いつか刺されるわよ」
「その時はその時。どうにかするわ」
雪花がにこりと可愛らしく微笑んだと同時に、授業開始のチャイムが鳴った。それ以降特に会話はせず、大人しく自分の席へと向かった。
その後は別の話題で盛り上がり、いつも通り一緒に帰る時もその話は続いた。分かれ道まで来て、クラスメイトは今日の会話を思い出し、雪花に結婚してる人には手を出さないよう軽く忠告をする。当然それを聞く雪花ではなかったが、実際彼女ならなんとかなりそうだとクラスメイトは苦笑しながら帰路についた。
しかしこの日を境に、雪花は東京から姿を消した。
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