小説 | ナノ


たったそれだけのことだけど


文中に蝶を入れて嬉しいをイメージした蒼豹を書きなさい


蒼天を見ていて、たまに「すっげー綺麗な花っぽい」と豹徒は思うことがある。
理由は明白で、ひとえにモテるからだ。
蒼天はモテる。とんでもなくモテる。
ほとんど公園でしか会わないが、通りかかる女の大勢が立ち止まって少し頬を赤く染めて、話しかけるかかけまいか迷ってから豹徒に睨まれ立ち去る。
遠目で見てそれなのだから、町を歩けば逆ナンもされるのであろう。
そういうわけで豹徒は女は「蝶」に、蒼天は「花」のように見えるのだ。
花に群がる蝶。当然のことだが、豹徒は寄ってくる蝶達がうっとおしく思えてしまう。
今もそうだ。
たまたま蒼天を見かけたので話しかけようと思ったらすでに先客がいて、しかも女。
そしてただの仕事仲間かと思いきや、女の頬がほんのり赤く染まっている。
公園で見た、蒼天を見て立ち止まる女のような顔だ。
女が四課だと困るので豹徒は身を潜めるしかなく、眉間にしわを寄せながら話終えるのを待った。
だがただじっとしているのも性に合わないので、女から見えない位置でなるべく様子が見える所へ移動する豹徒。
その時に一瞬だけ、蒼天と目が合う。
気のせいだろ、と思いつつ豹徒が二人を見ると、蒼天がばつが悪そうに謝って会話を無理矢理終了させていた。
そして女が去ったのを見届けると、こっちに歩いてきた。

「よぉ、そんなとこで盗み聞きか?」
「誰が盗み聞きだ!」

人聞きの悪いことを言われて、豹徒は反射的に言い返す。
それを聞いて蒼天は違うのか。と少し首をかしげて考えるそぶりをし、数秒たたないうちに再び口を開いた。

「じゃあ俺が話終えんの待っててくれたのか」
「うっ、ち、ちげーよ!」

図星をつかれて思わずどもってしまう豹徒。
それを見て蒼天はふーん、へぇー、とにやにやとした笑みを浮かべる。

「なんだよ、そのにやにや笑い……」
「素直に言えば可愛いのにな」
「うっせ、ほっとけ!」

言いながら豹徒は直球な言葉に赤くなってしまった顔を隠すようにそっぽを向いた。
それに気付いているのかいないのか、蒼天は拗ねんなよーと豹徒の頭を帽子の上から撫でている。
そのうち撫でられることにも恥ずかしくなって、豹徒は手から抜け出してくるりと蒼天の方を向いた。

「じゃあ拗ねんのやめるからさ、こーえんいこーぜ!こーえん!」
「今からか?」
「ダメか……?」

言ってからまだ仕事中かと豹徒は気づくが、蒼天はそんなことは気にするなとでも言うようににんまりと笑う。

「仕事は他のやつに押し付けるから良いぜ!」
「うわっ、ダメな大人だ!」
「誘ってきたのはお前だろ」
「いや、そうだけど……」

まさか仕事をほっぽりだすとは思わず、呆れたような顔をする豹徒。

「だったら良いだろ!行くぞ!」

そんな豹徒の表情を無視して、蒼天は公園の方へ歩き出した。
その背を慌てて追いかけながら、豹徒は先程のことを思い出す。
ほんの一瞬目があっただけなのに、自分だと気付いてくれて。
しかもわざわざ話を切り上げてこちらに歩いてきてくれた。
それがどういうことなのか考えて、嬉しくなり、ついでに照れくさくなった豹徒だった。

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