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いつか、いつか


今日はあいつの機嫌が悪い。
そう読み取った豹徒は母親の視界に入らないよう、そっと立ち上がる。
そのまま静かに別の部屋に行こうとするが、その前に母親が豹徒の肩をつかんだ。
豹徒の肩がびくりとはねる間もなく、そのまま肩を引っ張られて床に叩きつけられる。
衝撃に肺から空気が漏れた。
しかしそれを気にもとめず、母親は豹徒に跨がり首を掴み締め始めた。
豹徒の首からギリリと音が鳴る。
なんとかどけようと締めている手を引っ張るが、びくともしないどころか、締める力は強まっていった。
酸素が入ってこない、二酸化炭素が吐き出せない、そんな状況が続けば人はあっさり死んでしまう。
死んでたまるか、と豹徒はもがく。
母親が罵倒を浴びせているような気がしたが、金切り声すぎるのと酸素が足りなくてあまり聞こえない。
たった20秒。
それだけしか経っていないのに、必死にはがそうとしていた豹徒の手から力が抜けていく。
そして1分ほど経った後、これ以上はまずいと思ったのか、気がすんだのか、母親は豹徒の首から突然手を離した。
豹徒は肺にたまった二酸化炭素を吐き出すために、むせたようにゲホゲホと咳を繰り返す。
そうにも関わらず母親は、豹徒の腹を思いきり蹴り上げた。
豹徒はたまらずゥアッ…!?と小さな悲鳴と共に今度は空気ではなく胃酸混じり唾を吐き出す。
そんな豹徒に目もくれず、綺麗にしておきなさいよ。とだけ言って母親はどこか、おそらく男の所、へ行ってしまった。
母親が家から出ていったのを扉が閉まる音で確認して、豹徒はふらふらと立ち上がる。
ちらと視界に入った自分の吐き出した透明な液体を見て、乾ききった唇を噛んだ。
ぶちりと音がして、口の中に鉄の味が広がる。
ーーいつか、いつか自分が母親を殺せる力を持てたなら絶対に殺してやる。
だから今は、と自分の醜態に言い訳をして豹徒は片付けを始めた。

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