あの学園という小さな世界にいた、唯一の女の人。誰もが望み、触れたいと願い、気高きものと崇高していた。ある者は、率直に気持ちを伝えようと行動し、ある者は必死に守ろうとした。そんな男達に、慈悲深き微笑みを見せ、誰彼関係なく手を差し伸べた。黒衣こそ身につけていないが、それ以外は本当に聖女のようだ。

皆が思った。彼女は一体誰に心を許し、その身を捧げるのか。その誰かになりたいと願いつつ、そんな人はいないと思い込む。


「君に想ってもらえる人は、本当に幸せだね。」
「…そんなことはないですよ。」
図書館で彼女にたまたま会った。どうせなら一緒に、と机に向かい合って座っている。きっと弓道をやっている賜物だろうか、椅子に座っているだけで姿勢がいいから絵になるな、と思った。先程から本と向き合っているので、僕と目があうことはない。仕方ないので、僕も本とノートに向かうことにする。


「…だって、当の本人はまったく相手にしてくれないんですから。」
「それは、気が付いてないだけじゃないかな?もったいない、なぁ。」


「本当にそう思ってますか?」


え、と彼女の方を見た。大きな瞳が僕を見ていた。

「神様は、本当に意地悪ですね。」





じゃあ、シスターは?