なんなら他の手伝いも









「サンジくん、私に料理教えてください!」





キッチンでタバコを吸っていた彼に向かって勢いよく頭を下げると、戸惑ったような声と視線を感じる。彼は困ったようにとりあえず、顔上げてくれないかい?と苦笑いした。



何故突然料理をしようと思ったのか、先日ナミとロビンと話していた時のことだ。たまたま寄った港で元気に走り回る子供たちを見ていつか結婚したいなぁとぼやいた私に「結婚するなら家事ができないとね」と言ったナミにびく、と肩を震わせた。何よ、と眉をあげたナミは、まさか、と探るような目を向けてくる。彼女から目をそらしているとロビンが「もしかして料理、出来ないの?」と確信を突いた。二人はある程度一人で生きてきた経験があるから多少は出来るようだが、両親と共にのんびりぬくぬくと育ってきた私にはあまり縁が深いものではない。でも、流石に私もそろそろ料理のイロハぐらいは知っておくべきだろう……と、彼に説明すると、成る程ね、とサンジくんは納得したように頷いた。





「そういうことなら俺で良ければ教えるけど……そうだなァ、カレーあたりから始めようか」
「ほ、ほんと?」
「もちろん、サナちゃんの頼みならなんなりと」





柔らかく笑って演技がかったようにお辞儀をする彼は相変わらずの紳士だ。感激して彼の手を取って握り再度感謝をすると、少し目を見開いてから、いや……それほどでも、とゆっくりと目を逸らされてしまったので綺麗に保たれた彼の掌からそっと離す。料理人である彼はいつも手のケアには力を入れている。つい自分の手を見たが、ささくれが出来ていたり決して綺麗とは言い難い。勿論手入れをしている彼と比べるのはナンセンスだけれども……





「サナちゃん、」
「あ……」
「指、痛くないかい?」




不意にサンジくんは私の手を下から掬い取るように握る。穏やかな声で私を気遣う彼は、料理には自分を守るためにも怪我はしない方がいいことを伝えた上でよく効くハンドクリームを教える、と笑うとそのまま私の腕を引いて材料を置いている倉庫へと案内する。一つ一つ丁寧に説明してくれる彼は本当にキラキラしていて王子様のようだ。彼が女の子にもそして男の子にも優しいことをよく知っている。その後も細かな処理や切り方、大体の温度なども指示してくれるサンジくんの顔をちらりと覗くと、彼もまた何処か楽しそうな表情を作っている。これはナミさんが好きな野菜、こっちはロビンちゃんのよく食べる果物、ウソップはこの調味料が好き、と説明する彼はきっと料理自体が好きなんだろう、それで喜ぶ顔を見るのが好きなんだろう、と伝わってくる。真摯に料理へ向かう彼が一番輝いて見えた。








「で、できた?サンジくん、」
「……うん、バッチリ!程よい甘さもあっていいね」





はい、と差し出されたスプーンを咥えると口の中に広がったコクと最後に滲んだ甘みがとても美味しい。いつものサンジくんのカレーには劣るけれど、食べる分には全く困らない味わいだ。自分が作ったものとは思えなくて感動し、すごく美味しい!と声を上げてサンジくんを見上げるとスプーンを持っていない方の手で口元を押さえて彼はこちらを見つめていた。そっと名前を呼ぶと、ハッとして首をブンブンと横に振り、小声で何かを呟いてからいつものような笑顔でそれはよかった、と返した。






「うん、ほんとに……サンジくんのには敵わないけど……すごく美味しい……」
「嬉しいけどそんなことないよ、サナちゃんらしく俺のよりは甘さが効いててまろやか、あとは好みだな」
「ほんと?そっか、良かった……私全然料理できなくて、」
「出来ないんじゃなくて知らなかっただけさ、証拠にほら、すごく美味しいよ。サナちゃんは筋がいいからちょっと練習したらすぐに得意になる」





そういって励ましてくれる彼は言葉選びすらも性格が表れており、本当に欠点が見つからない。ありがとう……と、もう何度目か分からないそれにいいえ、と彼は目元を緩めた。ナミの言葉をぼんやりと思い出して、料理についてはクリアしたかな、と1人頷いた。





「これで頑張れば私も結婚したら困らないかなぁ」
「まぁ……料理ならそんなに頑張らなくても俺がいるし、」
「……へ?」
「あ、い、いや!まぁ……うん、頑張ってるサナちゃんはすごく素敵だと思うよ」





両手を広げて慌てて返事をする彼に疑問符を浮かべつつ、もう一口カレーを口に含んだ。小さな鍋には少量ではあるが暖められたカレールーがそこに存在する。今日はこれをご飯に出すの?と尋ねると、彼は少し考えてから「俺と2人で先に食べるのとか、どう?」とほんの少しだけ悪戯っぽく笑った。その意図に首を傾げつつも別にいいけど、と肯定すると、彼は楽しそうに口を開く。






「だって君の手料理をこうして食べられる特権、滅多にないだろ?」





彼の言葉に思わず固まった私に、サンジくんは喉の奥で少し笑った。冗談だよね、と頼りない声で尋ねるといや、と口角を上げて「本気だよ、下拵えも一緒にやってたしね」とウインクをした彼には料理でも、こういうところでも本当に勝てそうにない、と思った私は、1人になった彼がタバコを吹かせつつ口を滑らせそうになった、とキッチンの壁にもたれ、耳を赤くしていたことを知らなかった。






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