宝の名前は








「おれと一緒に来いよバギー!サナ!」
「おめぇの部下なんざまっぴらだバーカ!!!サナ!俺に付いてこい!」
「やだよ!私も1人で旅をしてみたいの!」






懐かしい夢を見た。あの日は酷い大雨で、ロジャー船長の処刑に俺たちが悲しんだそれを表しているようだった。あの日以来シャンクスとも……サナとも会っていない。戦闘の腕だけはキレたシャンクスなんざ俺にとっちゃあどうでもいい。それにどうせアイツもしぶとく生きているだろう。それ以上に俺がどうしても忘れられないのはあの女だ。




サナは俺たちと同じロジャー海賊団での唯一の女見習いだった。あどけなさの残る顔立ちは他の船員からも人気だったし、よく宴の席ではレイリーさん達の近くで酒注ぎをしていた。とはいえ、可愛らしい性格だったか、と聞かれると特に俺やシャンクスは首を傾げるだろう。

いつだったか、停泊した街の酒場に3人で入った時もそうだ。酔っ払った山賊に酒を注げたと絡まれた時サナは何の戸惑いもなく注いだ酒を山賊に思いっきりぶっかけやがった。「そんなに安い女じゃないよ」とつん、とした顔を見せたあの日を今でも忘れない。シャンクスはそれにバカみたいに笑っていたが俺は気が気じゃなかった。勿論俺の命の危機もそうだし、アイツがひでェ怪我でもしたらと思うと肝が冷えたのを思い出す。アイツも決して弱くは無かったし、たまたま飲み歩いていたレイリーさんにも拾われて事なきを得たが随分怒られたのは言うまでもない。

あの2人とは航海中にくだらない言い合いや張り合いを散々したし、かと言えば揃って時間を潰したり、それなりに遊んだこともある。あの日々が嫌いだった、というと嘘になる。なんやかんや俺はあの船で楽しんでは居たはずだ。



ゆっくりと目を開くとそこには青空が広がっている。二人と別れた日とは全くもって似つかわしくない晴天だった。






「バギー船長!向こうの小舟から誰かが飛んできます!」
「あぁ飛んで……あァ!?飛んでくるだぁ!?おい、どういうこと、」




船員からの報告に対して だ、と最後の言葉を言い終わる前に舞い降りたのは一人の女だった。少し重たそうなコートを翻して堂々とその場に立つソイツは長く伸びた脚を惜しみなく見せつけるようなショートパンツに豊満な胸を押さえるには足りないような編み上げのベストを見に纏っている。スベスベの実を食べたアルビダに劣らないほどの美女。顔も勿論一級品なのだが、何処か滲む可愛らしさがなんとも愛らしさを押し上げている。仲間達が感嘆の声を漏らすのも頷けた。




「…………バギー……?」
「おまえ、サナ、か……?」




そう、いつもなら頷けた筈だ。その物凄く馴染みのある美女としばらく見つめ合った末、整ったその顔がキラキラと少女のように輝いたかと思えば思い切り俺に向かって飛び込んでくる。慌てて受け入れ態勢を作りつつも勢いを殺すことはできずそのまま思い切り甲板に後頭部を打ち付けた。




「っ、てェ〜!!!!」
「嘘!本当にバギー!?鼻赤いもんね!?本物だ!!!」
「て、てめ、会って早々なにしやがッ」
「懐かしい〜!元気だった!?」
「お、ま!バカヤロウ!はなせ!はーなーせー!!!」



圧倒的な質量が俺の顔へとのしかかる。あ、ありえねぇ……何があったらこう成長するんだ!?お前昔は大したことなかっただろ!?と思わず考えずにいられない。息ができなくなるくらいのそのボリューム感、俺ァ知らねェぞ!







「そっか、船長……ほんとバギーも成長したなぁ……」
「俺ァお前の成長っぷりの方が衝撃だぜ……」
「え、そう?そんなに変わった?」
「変わったわ!!!気付け馬鹿バカ!!!」
「な、バカって何よー!!!バギーのバカ!」




どうにかこいつを引き剥がしてお互いの近況を話し合う。しみじみと俺の成長に感動していたサナだが全くもって俺様はお前の変わりように驚愕している。女は少し会わないうちに大人になるとはよく言ったもので……いや、これは大人になり過ぎの例だが。それでも昔と変わらないやりとりができるのは純粋に悪い気はしなかった。船員達にも勿論気に入られたコイツに今日はパァーッ!と宴でもするか!と宣言すれば雄叫びが上がる。そりゃあ俺だって久しぶりにもう少しじっくりと話したいところだ。









「ばぎぃ……お酒もっとぉ……」
「ッダメだっつってんだろ!?オメーはこれ以上飲むなバカ!」




それがこのザマである。たしかに俺だって失念していたがコイツの酒癖が昔から全く変わっていないのと大問題だと思う。昔から甘い酒には滅法弱く馬鹿みたいに酔っ払う癖があったが今でもそれは健在らしい。俺もシャンクスもこの悪癖は将来身を守るのに困るだろうとどうにか矯正しようとしたが叶わぬ夢となったのだ。こんなにもヘロヘロになりつつも酒を求めて甘ったるい声を出すサナに心を鬼にし拒否をする。事実コイツはめちゃくちゃ可愛いからこそ、どこまで正常に俺が保てるかで勝敗が決まるのだ。





「大体俺様がいるんだから酒なんかどうでもいいだろ?あァ!?」
「……じゃあ、ばぎーは……おさけよりわたしをよくしてくれるの?」
「な、ッば、馬鹿野郎!!!お前何つーことを……!」
「どうした船長ー?」
「っせぇ!お前らは黙ってろ!」




遠くから聞こえる喧騒の中俺に声をかけるクルーに怒鳴り返しつつ改めて、もうよっぽどグデグデの女と見合う。少し据わった目はぼんやりとテーブルを見つめており体はゆらゆらと小さく揺れている。ぼす、と分かりやすくそのまま俺の肩にもたれかかったサナに微妙な気持ちになる。昔こうしていつも肩に乗られるのはシャンクスの方だった。当時はぶっ殺してやろうと思っていたが……確かにこれはこれで、厳しいかもしれない。と当時のシャンクスへの謝罪文を考えた。わるかったな、オイ。




「ばぎー……べっど、」
「ハァ!?」
「ばぎ、ねむ、い、べっど……おふとん、つれてって……」
「お、お前、マジであんま舐めてんなら……!」
「ヒューヒュー!やったれ!船長!」
「いいぞ!船長!」
「〜ッ!!!お前ら引っ込んでろ!!!」





ここまでお膳立てされちゃあ俺だって示しがつかねェ。意を決してがばり、と思い切り横抱きにしてサナを持ち上げると上がる大歓声。流石船長!男気あるぜ!なんて声を背中に受けながら甲板から離れた部屋へと連れて行く。ある程度整った誰のものでもない部屋のベッドにゆっくりと降ろしてやる。もう半ば意識のない彼女はそれでも俺を離すまいと袖先をしっかりと捕まえていた。……可笑しな話だが、俺はコイツをどうにかしてやろうなんて気は全くなかったのだ。ただ、ムニャムニャと俺を求めるように名前を呼んで、いっしょにねる、とぼんやりと口元から零す言葉にはおそらく嘘はない。お前は女なんだ、もっと意識しろなんて、そんなセリフが俺に似合うとも思えなかった。

だから、ただ隣に寝転んのだ。これをシャンクスが見たら小心者だと笑うだろうか。いや、それでも構わないかもしれない。お前というお宝を手にするのには今はまだロケーションもコンディションも悪い。もっと、素晴らしい瞬間を演出しなきゃァ、いけねぇ。なぁ、そうだろう?穏やかに寝息を立てる彼女に問いかける。俺の名前を小さく呟くその姿は非常にいじらしいものだ。まだまだ、俺には大切にしたい、という気持ちが残っているらしかった。勿体ない、そんな言葉が聞こえた気がした。それでも俺は少なくとも今は、お前の隣でただ従って眠りについてやるのだった。







「船長!あの美人さんとどうでしたか!?」
「やっぱサイコーっすか!」
「サイテーだ馬鹿タレ!!!!」






まぁ、盛大な誤解は招いたらしい。







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