何も始まらない

真実の愛など、そこらへんに落ちていない。だーから歩いてー、というわけでもなく、真実の愛というものはそもそも女神様の気紛れか妖精の悪戯か、そういった類いのものによって得られる、いわば宝くじのようなものなのだ。そうでなければ、世界中そこかしこに真実の愛が溢れてしかるべきである。人間誰しもが愛を求めているのだから。
故に、アーサーは真実の愛とやらを手に入れることをとうの昔に諦めていた。というか、手に入らないだろうと結論付け、それを受け入れた。なぜなら、アーサーはそもそも愛というものを受けたことがないからである。
この世に生を受けて初めて愛情を注いでくれるだろう両親は、アーサーに愛をくれなかった。母親はアーサー出産の際に亡くなり、父親は筋金の入った金・権力崇拝主義者だったからである。ならば、彼を育てた乳母や彼の世話をした使用人はどうか?乳母は自分になつかせてアーサーを意のままにしようとしたし、使用人たちはアーサーより雇い主であるアーサーの父に重きを置いた。そんな待遇を受けるアーサーが人格破綻を起こさなかったのは、ひとえに本のおかげである。
アーサーは本を読むことが好きだった。外面を気にする父も、アーサーが賢いと自慢するためにかなりの本を買い寄越してきたから、アーサーは本に困ることはなかった。



2015/03/13 01:30(0)

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