01


百年、言葉にしてしまえばただそれだけの文字でしかないが、実際のところそれは気が遠くなるほど長い年月であることは確かだ。明けて暮れて、丁度百年。ジョナサンの肉体を奪い取ってからの九十年余りを海の底で過ごしていたわたしはある意味では死んでいたが、またある意味では最も生きていたと言えよう。なにしろ、暗闇の中で瞼を下ろし物思いに耽ることしかやるべきことが無かったのだから、考える時間は腐る程あったのだ。唖々、あの日、あの夜。わたしが七年ものあいだ帰るべき屋敷を同じくしたジョナサンの首から下を奪い取った、あの客船。
さよならと、あの女は言っただろうか。人外へと成れ果てたわたしに向かって、別れを告げただろうか。いいや、いつか会えるからと彼女は言ったのだ。必ずいつか会えると、確かに。ひと時だって忘れたことは無かった。一年前海の底から引き上げられた後も、わたしは彼女の無責任で不可能極まりない言葉を信じていた。否、未だ尚。

わたしが総ての拠点を据える地として選んだエジプトの館では冷たい小雨ばかりが降った。 太陽が姿を消した後の暗い帳の中でわたしは雨垂ればかりを見つめていた。死んでいったあの女を思い出した。
暫くのあいだは会えないのと彼女は言っていた。海から上がれば会えると。

確かにお前は姿を消した。一体何処へ、隠れたか。

雨垂れの向こうで何かが爆ぜるのを見た。視線を遣ると一層美しささえ見て取れる真白い鳥が、機嫌を損ねて居るらしいペットショップの爪にその儚い命を刈り取られたのが見て取れた。
二寸ばかりの小さな鳥は、何処まで跳ねるつもりだったか。

わたしもお前から姿を消した。遠くへ上手く、隠れたか。

冷たい雨は際限無く降り続き、哀れな小鳥を爆ぜさせた。見事な羽根の甲斐も無く、緩慢に曲線をなぞりながら無残に石くれの上へと落ちていった。

お前はまた、わたしを訪ねてくる。そう思った。


エジプトへ腰を据えてから暫く、極東で生きるお前を見つけた。
お前はわたしの預かり知らないまったく別の人間として生きていた。逸る胸を抑え付けるわたしと実に一世紀ぶりに対峙したお前はあの日あの夜と寸分の違いも無く、何処を見てもあの時のまま、ただ一つ当時と変わったことは、このDIOのことを何一つ、


唖々、なまえ、お前は何処に隠れたか。
もう良いか?

未だなのか。