Ears 美少女が茶色い髪をなびかせ歩く。 どんな男でも振り返ってしまうその美貌に月空は興味がなかった。 彼女が髪をかきあげた時に見えた耳にある機械。 そう彼女は難聴者であった。 並盛町の外れにあるマンション。 その15階では今日、引っ越してきた家族がいた。 父・母・娘という家族構成で、引っ越してきた理由は「父の転勤」。 よくあることで月空にはなかなか仲の良い友達が出来なかった。 ここもいつまでいられるか分からない。 段ボールのある、まだ整理されていない部屋で月空は机の前にいた 電気をつけて、何度も何度も読み返した本を手に取る。 月空の両耳が小学3年生の時に悪くなり、世界が真っ暗になるようだった。 前から好きだった読書が月空から奪われなかったのは、唯一月空が安心できた事だった。 その本を大切に鞄の中に入れる。 明日からここの街の中学校に通う。 手続きなどは全て親がやってくれた。 ――…また友達ができる前に転勤してしまうんでしょうけど。 月空は明日に向け、ベッドに寝転ぶ。 補聴器をつけていない状況では世界は無音だ。 カーテンをまだつけていない窓から月の光が月空の美しさを一層引き立てる。 そして、次の転勤はいつかな。と考えながら月空は眠りについた。 2009.9.7./12.4.28. [×] [→] [back] [TOP]
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