03:どうしてあの人の涙も思い出せないのかな

「皆、揃っとるようじゃの」

総隊長の言葉で一瞬にして緊張感が漂うのが分かる

「それではこれより新任の儀を執り行う、」

長々と総隊長の言葉が続くのをぼうっと見つめる

「ーーーーーーーーーー二番隊隊長四楓院夜一の推薦により同隊四位の席官を召喚した、」

こんなに立派な式を執り行うのか、と驚く反面、自分の気持ちとの差異に引け目を感じる
姉もこの式を執り行ったのか、

「ーーーーーーーーーーここに元・二番隊第四席苗字名前を七番隊新副隊長に任ずるものとする」

一斉に自分へと視線が向けられるのが分かる

「このような大役を仰せつかり、気を引き締めて精進する所存でございます」

無機質に吐き出した言葉は虚しくも空に消えた気がした







七番隊舎にて仕事をする
二番隊の頃は身体を動かすことが多かった気がする、副隊長になると、もっぱら書類整理が増えた
出された書類を整理する、

「三席、」

「な、なんでしょう」

「誤植がある」

「八席、」

「は、はい!」

「ここの案件、資料読み間違えてる、これは一昨日の案件で今書くべき案件は2週間前のものでしょう」

「はいはい、ストップや」

「.......平子隊長」

「名前、機械ちゃうねんからそんなに進められへんやろ、皆死にかけてるで」

そういやそろそろ正午か、と気付き昼休憩の指示を与える

「何か御用でも?」

「おん、羅武ん所の新しい副隊長の顔を拝むついでに書類を渡しに来たんや」

随分と五番隊は暇みたいだな、と思いつつも書類を受け取ろうとする

「自分、歌匡の妹やろ?あんま似てへんなァ」

自分の表情が強ばるのがわかる、それが悟られないように平然を装う

「ええ、姉が生前お世話になったみたいで、確か同期ですよね」

「……覚えてたんやなァ」

姉との僅かな記憶の中で確か賑やかな人と同期であり、一度会ったことがあることを引っ張り出す

「ええ、誰より尊敬している姉でしたので、」

いつもの常套句を吐き出す

「嘘やな、」

突然吐かれた否定の言葉に僅かながら動揺した、

「何が目的で自分は護廷十三隊に入ったかは知らんけど、時灘は除隊してるで」

「……何が言いたいんですか、」

胸のあたりがゾッとする寒気さを覚える、何なんだ、とのの人は、

「大方復讐するつもりだったんやろ、」

「まさか、」

上手く話せない、嫌な音を立てる心臓を一生懸命に落ち着かせる
そんな様子を見て、やっぱり図星かい、と呆れたようにため息をつかれた

「昔見たァに笑っとけばええやん、」

「……何が言いたいの、」

「そない睨みなや、べっぴんさんが台無しやで、」

ほなこれ羅武に渡しといてや、と歯を出して笑って手を振ってくる

飄々としているようで物事の本質を掴んでる人なの、と姉が言ってたのを思い出す
認めたくないが、姉の言う通りだと思う









姉が殺された後にすぐに護廷十三隊に入るために霊術院に入学した理由を、自分が認めたくなかった心の奥底にある思いを見つけ出されてしまったこの虚しさややるせなさをどう片付ければいいのか、

自分で考えても答えは出てこない、

分かってるんだ、姉がこんなことを望んでないことくらいは、

もはや姉の声すら思い出せないくらに過ぎ去ってしまった日々があることに気付いた
気付いたけどどうしようも出来なかった、