03:叫ぶ声があなたを墜落し過らせた
生きるということは些か窮屈に感じることが多い。
「おい、知ってるか?あの銀髪頭の餓鬼って人間と天人のハーフなんだ、だから大人相手を圧倒する力があるんだ」
「ったく、そんな得体のしれないもの近付かない方が身のためだ、恐ろしい」
「異人が侍の国に来るとは、世も末だな」
わざとこちらに聞こえるような声で言う同年代、いや私たちよりも歳上だろうか。
木刀を手に取り男たちの急所を目掛けて振りかざす。
痛そうなうずくまるその姿はまさに滑稽だ。
「テメェ、女のくせして何しやがる!」
『すみません、木刀を扱うのには慣れてなくて思うがままに素振りをしてたら当たってしまいました』
「この野郎!」
7歳の子供相手に10代半ばの3人の男が一斉にこちらに向けてむきになるのか、と呆れる。木刀を振りかざす隙に左の手で唐辛子と卵の殻を磨り潰した小袋を3つ投げつける。
「グハァッ、目が!目が!」
『痛いでしょ?それ目潰しって言うの』
「貴様!刀で戦わず小道具なんぞで戦うなんぞ卑怯だぞ!武士ならば己の刀のみで戦え!」
『誰が喧嘩は剣だけでするって決めたのよ?それにそんな非効率な戦い方をするのが武士と言うのならばならなくてけっこうよ。こんな小娘相手に3人で襲いかかったくせして負けるなんてあんたたちよっぽど弱いのね』
「はいは〜い!ストップストップ!何やってんの?名前ちゃん?道場破りもそこそこにしなさい、今月入って毎日毎日近所の道場破りしちゃって、隣の晩御飯ですかこのヤロー」
『ご飯の片付け時に卵の殻を集めてた回があったわ、それに最初に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちよ』
「松陽も面倒なこと押し付けやがって、おらっ!帰んぞ!」
腕を引っ張られてされるがままに足を引きずりながら歩く。あぁ、いつだって私は君に守られている。
「また隣の晩御飯をしに道場破りしたらしいですね、晩御飯が欲しいなら強盗のような真似をするのではなくてもう少し平和に交渉しなさい」
『先生、私毎日隣の晩御飯してませんしそもそもそこまで食い意地はってません』
「しかし毎日派手に暴れてますね、右手怪我したのでしょう?見せてみなさい」
『……』
大人しく先生に右手を見せる。3日前に右手で剣を使ったときに腕力で負けて骨が折れたのだ。咄嗟に目潰しの袋を投げたものの危なかった。
『……先生迷惑かけてごめんなさい』
「何で謝るんです?銀時を守るために戦ったのでしょう?」
そう言ってにっこり微笑み薬草を磨り潰した薬を塗ってから包帯を巻いてくれた。歳を重ねていく毎にどうしても男女の差を感じてしまう節が多くなった気がする。
「名前は両手を使って戦うことができる」
『……』
「名前はいつだって冷静に相手の急所を狙うことができる判断力もある」
『……先生?』
「名前の戦い方を見つけなさい、あなたは強いですよ」
『……私、そんなに顔に出てましたか?』
「いえ、私は名前の先生ですから」
『……先生はずるいです、』
可笑しそうに私を見つめるその瞳は暖かい。
「もし、私がいなくなってあなたたちだけになったとき、銀時が皆を守ってくれるでしょう。その時、銀時を支えてやってくださいね」
『縁起でもないこと言わないでください、それに言われなくてもそうするつもりです』
「それは頼もしいですね」
『……先生は、』
「…?なんです?」
『いえ、何でもないです、おやすみなさい』
ふと、出かかった言葉を押し殺す。なんて縁起でもないことを考えたのだろうか、先生はどこか遠くに行ってしまうんですか?、なんて。
死が近付くと見えてる風景が美しく見えると言う。
先生を見ると美しいと感じてしまうのは、それは消えてしまう未来が予測できるからだろうか、なんてそんな戯れ言を胸にしまいながら戯れ言にするために強くなりたいと思った。