世の中何が起きるか解らないものだ。
例えば、80まで生きてやると意気込んだ矢先にうっかり死んでしまったり、死んと思ったら何故か生まれ変ていわったり、前世の記憶を持っていたり、週刊誌デビューしちゃったり、………ある日突然サスケになっていたり。
………、……サスケ、だと!?
ま、そんなわけで(どんなわけなのか解らないし解りたくもないけど)俺はサスケ君とそして生きることになりました。めでたしめでたしもう泣きたい!
「サスケくぅん、隣いい!?」
そう言いながら、ナルトを押し潰すように身を乗り出すのは、ピンク色の髪を肩まで伸ばした女の子、もといサクラちゃんだ。
サクラは現在、顔は笑っているのに眼は笑っていない恋する女の子。
恋する彼女たちは正直怖いです。眼がマジです。怖いです。俺は軽くせんりつする。
「それは俺じゃなく、俺の隣に座っているナルトに聞くべきことだろうな」
「あ、うん…そ、そうね」
内心ではドン引き気味の俺にバッサリと切って捨てられたサクラは、ひきつった笑顔を浮かべながらナルトを見やった。ナルトは今、恋する乙女(と書いて戦士と呼ぶ)の行く道を妨害する魔王の手下Aみたいなものだ。滅してやりたいと顔に書いてある。
「ナルト…悪いんだけどそこどいて…?」
だが、俺(というかサスケ)が見ている手前強行手段をとることもできず、サクラはヘラリと薄っぺらい微笑みでナルトと向き合った。
なんだかサクラの後ろに阿修羅像が見えるんだけど……幻覚だよね!
「え?ヤダ」
俺が内心ヒヤヒヤしながら見守っていると、ナルトは空気を全く読んでいない顔でサクラの頼みをすっぱりと断る。
結果、サクラの顔がさらにひきつって、俺には背後の阿修羅像が怒髪天をつく勢いでお怒りになっているのが見えた。けれどナルトは気にしたそぶりすら見せず相変わらず飄々としている。(いつの間にそんな逞しい子に育ったんだい!?)
……そう、このナルト、俺がサスケになってしまったせいかどうかは解らないが、原作のナルトとは少し性格が違うようなのだ。
……まぁ、何が違うのか具体的に説明すると、まず第一に、サクラに全く興味を持っていないことがあげられる。今だって自分の真横でビームのような熱い視線(?)を発射しているサクラをほぼ無視して、イルカ先生から貰ったであろう額当てをいじくっている。
第二に、そこまで頭が悪くない。相変わらず成績はドベまっしぐらだが、話してみるとむしろ利発な子供というイメージをうける。
そして第三に、やたら俺になついている。こればっかりは確実に俺のせいな訳だが、その、なんというか、……如何せん、どうしようもなかったんだ。
だって目の前で石投げつけられたり、苛められたりしている子供を見過ごせるほど俺も腐りきってはいない。見た目はサスケ君でも、中身は大人だからね。やつれてフラフラした子供を知らんぷりできないよ!うっかり面倒見ちゃうよ!
つーか、この里の人間があんなに大人げないとは思わなかった。
ナルトには食料売らないとか、それなんていじめ?!公園の水すら飲んじゃいけないとか、それなんて迫害?!この里の人間オカシイヨ!ってなわけで、ついつい面倒見ているうちにすっかりなつかれてしまった。……なんかゴメン。ハハハ。
「サスケェ!聞いてんのかってばよ!」
「ん?ああ、ゴメン。聞いてなかった」
俺があれこれ考えているうちに、ナルトが話しかけていたらしい。気づかなかった…あれ?忍失格じゃね?
「んだよー、折角話しかけたのに」
「あーゴメンゴメン、拗ねるなよ」
ナルトが唇を尖らせるので思わず宥めるように言ってしまった。
サスケってこんなキャラじゃなかったはずなんだけど、もうダメだ。今更修正とかきかないし、俺にはあんなスカした態度恥ずかしくてとれない……。
それでもモテるサスケって……このイケメめ、爆発しろ!と言いたい。
「べっつに拗ねてなんかねーし!」
「はいはい、解ってる。今のは言葉のあやだって。それで?何の話だったのかもう一回教えてくれよ」
「えー…しかたねーなァ。あのさ、あのさ」
「サスケ君!!」
ナルトの言葉を遮るように、サクラが声をあげる。
ごめんサクラ、すっかり忘れてた。
「なに?」
「ナルトなんかと話してないで私とお話ししましょうよ!」
「いや、悪いが今はナルトと……」
「サスケは今俺としゃべってんの!話したけりゃ俺の後にしろってばよ!」
「私は今サスケ君と話したいの!アンタいっつもサスケ君にくっついてるじゃない!たまには私に譲りなさいよ!!」
「そんなの知らねーってばよ!俺は俺の好きな時にサスケと話してーの!」
「私だって私の好きな時にサスケ君と話したいのよ!!だからそこどけッ!」
「嫌なもんは嫌だ!!」
「なんですってー!!」
ハハハ。
な ん だ こ れ !
何でこの二人が俺(つーかサスケ)を取り合ってんだよ何これ怖い。
ちょ、収拾がつかないんだけど誰か止めに入いれ。
そう思って周りを見渡してみるが、皆面白いほどスルー。
あ、関わるのめんどくさいんですね解ります。
俺は人知れずため息をついた。
× × × ×
……それからイルカ先生がやって来て、班分けの結果俺は7班になった。
7班にはサスケとサクラがいる。
……なかなかに上々じゃないか。
俺はこの時ほど『ドベでアホなナルト』を演じている自分を誉めてやりたいと思ったことはない。
学年一の落ちこぼれだったお陰で、学年一優秀なサスケと一緒になれたのだ。
まぁ、多少煩いのがいるが、それを差し引いてもお釣りが来る。
サスケは、俺がまだ幼かった頃から、なにかと俺の面倒を見てくれるやつだった。
そんな物好き、火影の爺さんくらいしか知らなかった当時の俺は、傷ついた野良猫みたいにサスケの手を引っ掻いたり噛みついたり(これは比喩であって、実際にそうしたわけではないけれど)しては、サスケの手を焼かせていた。
……今思えばあの頃から、サスケは俺なんかよりもずっと大人だった。4歳で暗部に入った俺は世の中の酸いも甘いも知り尽くしているつもりでいたのに、サスケはそんな俺を驚かせるくらい達観していた。
そして、何より……優しかった。
そんなサスケにほだされ始めたのはいつ頃からだったか。
暗部として、なにも知らない子供として、いつでもどこでも仮面を被りつづけてきた俺は、それに疲れていたのかもしれない。
いつの間にか心の拠り所をサスケに求めるようになっていた。
心は殺したつもりでいたのに、様ァない。
「じゃ、次はお前らだ。右から順に…」
すっかり自身の思考に耽っていた俺は、話をふられてハッとした。
どうにもサスケの傍にいると気がゆるむ。
俺とサスケ(ついでにサクラも)は、漸く現れた上忍とやらに連れられて、今は屋上に来ていた。
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