今生にて12年。
私もついにアカデミーを卒業することができました。
栄えある今日を迎える事が出来たのは、私を見守り生かしてくれた皆さまのお陰と思っております。
私を慈しみ育てて下さった火影さま、そして顔を知らぬ両親よ。どうかこの私のために喜んでください。
あなた方のアゼルは自ら望んで首を括ります。
ここには苦悩や後悔といったいずれの念もありません。
実に晴れやかな気持ちで、この人生に幕を閉じたいと思います。
火影様におかれましては、死して尚ご迷惑をおかけします事、深く深くお詫び申し上げます。
さらに厚かましくありますが、我儘をひとつだけ聞いて頂けないでしょうか。
私の死後はこの家に火を放ち、全て燃やして欲しいのです。
私の死体も一緒に燃やしてしまって構いません。
私は私が生きた痕跡をなるべく残したくないのです。
この一点だけ、どうかよろしくお願い申し上げます。






椅子は蹴り倒され、足場はなくなった。
輪状に結ばれた額当てが頸動脈に食い込む。
脳を酸欠が蝕み、左右に揺れる視界が徐々に白んでいった。
心臓の鼓動が骨を伝わり耳のすぐ横で聞こえる。初めは忙しく、徐々に落ち着いて行くそれが心地よい。
黄泉比良坂はもう目の前だ。


パリン、と。
思考が掻き切れる寸前を見計らったように窓が割れ、クナイが飛び込んできた。
それとほぼ同じに、額当てと天井の柱を繋ぐ頑丈なロープが切れる。
てるてる坊主のように吊り下がっていた体は、一瞬の浮遊の後べたりと落ちた。

うずまきアゼル。通算378回目の自殺未遂であった。


「ゲホッゲホッ・・・ハァ、また死にそびれたか・・・」


見上げた天井に取り残されたロープは、まるでアゼルを宥めるように揺れている。今日はこれまでだ、と。
一度失敗すると、最低でも一ヶ月は監視の目が厳しくなる。
もう暫くはロープを手にすることさえ許されないだろう。

アゼルは目眩と吐き気を感じながらも身体を起こし、散らばっているガラス片を箒ではいた。
そして窓はダンボールで塞ぐ。後でガラスを買って来なければならない。
しかし今月の財布事情を鑑みると暫くはこのままになりそうだ。


「明日は朝からアカデミーで説明会かぁ、面倒だなぁ。明日を迎えるつもりが無かったから余計に・・・」


硬いベッドに横たわるとすぐに眠気がやってきた。
眠りに落ちる前はいつもこのまま突然死する事を願っている。
しかしこの若い身体では望みは薄いだろう。
そうしていつも繰り返しているように、何事も無く穏やかな朝を迎えるのであった。
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