▼ 狡猾って褒め言葉じゃないよね




「ふーむ、これは非常に、非常に困ったぞ」

組分け帽子を被ったトムに、帽子は困惑した声音で囁いた。

「私も長いこと組分けを行っているが、君のような生徒には初めて出会ったよ」

でしょうね。トムは口に出さなかったが、頭の中を覗く組分け帽子にトムの思ったことはお見通しだ。帽子は困り果てて渇いた笑い声をあげた。

「君にはどこの寮でもやっていける力量がある。しかし君はまことに正しいスリザリン生だ。しかも、偉大なことを成し遂げる力は既に持っている。・・・保身に貪欲過ぎるのが珠に傷だがね」

「それは自覚はしてますが、今更どうにもならない事です」

「そうかそうか、これは本当に困ったぞ」

考えあぐねいている様子の帽子はトムの頭の上でクネクネと体をくねらせた。
何をそんなに困ることがあるのだろう。トムはゆさゆさ揺れる帽子を鬱陶しげに片手で抑えた。

「もしかして、僕がダークサイドに走ることを懸念しています?」

「・・・さよう、さようだ。君には闇の帝王と同じ素質がある。私は末恐ろしくあるのだ」

トムはため息をついた。ヴォルデモート卿と同じ素質があるのは仕方のないことだが、こうもうじうじ不安がられると段々イラついてくる。

「じゃあ僕はグリフィンドールに入りますよ」

トムはぶっきらぼうに言った。
グリフィンドールの気風は少々肌に合わない気もするが、少しの間なら何とかなるだろう。
さすがのトムも、ここに6年間留まるつもりはない。

「グリフィンドール・・・君は何処でも上手くやっていける。だが、ここは君の行くべき寮ではない。何故なら、この寮で君が得られるものは余りにも少ない。それは結果として君を孤独に走らせるだろう」

「ならハッフルパフは」

「君は人に心を開かせるのが上手いようだ。ハッフルパフは君の楽園になるだろう。何故なら、多くのハッフルパフ生は君を慕い、君を中心とするからだ。しかし、その生活は痛みをともわなわい変わりない喜びも感慨もない。君は空虚を味わうことになる」

「じゃあレイブンク・・・」

「古き賢きレイヴンクロー。君の学びの友は、いつしか君を師のように敬うだろう。レイブンクロー生たる知的好奇心がそうさせるのだ。そして君は求められれば与える性だ。中には、君の知識によって道を外すものもいるだろう」

トムはとりあえず帽子の鍔をぎゅううぅと握り潰した。
お前は占い師か!という突っ込みは胸の奥でどうにか飲み込んだ。

「僕にはスリザリンしかないと、つまり、そう仰いたいんですね」

「それしかあるまい。先ずはそこで友を作るといい。信頼に値する友を。決して孤独になってはいけないよーーーーーースリザリンッ!!!」

漸く帽子から解放されたトムは、表情を変えずに深いため息をついた。
スリザリンの席からは割れんばかりの黄色い歓声が沸き起こっている。他寮の生徒(主に女子)は落胆の表情を見せた。

スリザリン席に到着すると、監督生と思しき青年に歓迎の握手を交わすよう求められた。
そこでお決まりの「君は純血かい?」の質問も頂いたが、ここで半純血であることを明かす必要はない。
トムは返事をする変わりに、意味有り気に微笑んでおいた。
それを勝手に解釈した監督生は満足そうに頷いて、席に着くように促す。

「マールヴェルト」

先に組分けが終わっていたマルフォイが手招きをした。
マルフォイの隣には一人分の空きがある。断る理由のないトムは素直にそこに座った。

「やけに時間がかかったじゃないか。君が何処になるのかハラハラしたよ」

「ああ、うん。帽子に大分迷われたよ。でも、ここが一番合うそうだ」

「当然さ」

マルフォイはニヤリと笑った。
少しの会話で、トムがスリザリン生になることは分かっていた、というような笑みだった。
勿論、マルフォイにトムの本質を見抜くほどの力はないので、ただのでまかせだ。

トムを招いたマルフォイは、それから夕食の間中ずっと自分と自分の家、それから父と母の話をし続けた。
トムがうんうんと熱心に頷くので、饒舌さに拍車がかかっているようだ。
トムとしても、自分のことを根掘り葉掘り質問されるよりはずっといい。
マルフォイと話すのは非常に楽だった。

「父上が言っていた。やはりマグル生まれと僕のような純血の魔法使いを同じ空間で同じように教育すべきじゃないって」

話題はやがて純血主義からマグル排除へとシフトして行った。
この頃になると周りの生徒もちょくちょく口を挟むようになり、トムの周りは盛り上がりを見せ始める。

「どうやってマグルを追い出すべきだと思う?」

マルフォイは皆の注目を集めた頃合いを見て、大人しく聞き手に回っていたトムに質問を投げかけた。

「無理だろうね、そんな事は」

トムはあっさりと答える。

「諦めるのか、マールヴェルト」

憮然と言い放ったのはいつの間にか話に加わっていた監督生だ。
それに対し、トムは軽く肩を竦める。

「馬鹿馬鹿しいと言ってるんですよ」

「なんだって!?」

声を荒げたマルフォイが、失望と批難の入り混じった眼でトムを睨めつける。
そんなマルフォイに微笑んだトムは、宥めるように言った。

「純血主義を掲げたいなら、ただ堂々としていればいいんだ。ゾウは道端に列をなしているアリをいちいち気にかけたりしないだろう?」

「マグルはアリじゃない。これ以上あの穢れた血で魔法界を毒するわけにはいかないんだ」

「すると、ヴォルデモート卿すらなし得なかった事を、君はやってのけると言うんだね?」

「なっ!!」

トムの口から飛び出した名前にマルフォイは肩を震わせた。それは周りで2人の会話を聞いていた生徒たちも同じだった。

「出来ない事に固執するのは馬鹿らしい。あり得ないけれど、もし僕がヴォルデモート卿の立場だったなら、それと気づかれないように支配することを選んだよ」

そう言って、トムはゴブレットを傾けた。
対立するよりも取り込む事の方がずっと楽で簡単なことを、トムは熟知している。今言ったことはトムの本音だ。
しかし教師としては不適切な発言だと思い、ふと自嘲した。

「・・・気づかれないように支配するとは、つまりどういうことなんだ?」

トムの周囲だけが不自然に静まり返っている中で、その沈黙を破った生徒がいた。
黒い瞳に意志の強そうな眉。すっと通った高めの鼻にらきつく結ばれた口元。端整な顔立ちをしているが、近寄りがたい雰囲気を持っている。
シャツの第一ボタンまでしっかりととめているところを見ると、規律には煩そうだ。

「さてね、想像に任せるよ」

トムはこれ以上この話題を引き伸ばしたくなかったので、言葉を濁した。

「俺はアルファルドだ。宜しく、リドル」

名乗り出た少年はトムに向かってゴブレットを傾け、乾杯するような仕草を見せてから中身を飲み干した。
トムは微笑んだが、宜しくとは言わなかった。
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