二次試験が始まってちょっと経った頃。
巻き物は開始早々他里の忍から奪い取る事が出来た。
今はゴールを一直線に目指している。はずだ。常人なら誰だってそうする。私もそうする。
だが、我がパーティーの過半数を占める奇人変人どもがそれを許すはずもなく。
また、私が扮するトラファルガーローもどちらかというと奇人変人寄りであるが故に。シャチが提案した『第一回わくわく楽しい人間狩り』を実行する羽目になっていた。
・・・・第二回が無いことを祈る。


「じゃあ一時解散と言うことでぇ!またゴール手前で会いましょう!!」


そう言ってシャチは意気揚々とかけて行った。
どうやら人間狩りは単独で行うものらしい。
シャチにもペンギンにも常人には理解できない美学があるようで、チームワークというものをあまり重要視していない。
一人になりたく無いなぁ。でも奴らのヤバイ提案には不適に笑ってノーコメントを貫く事にしているので却下することができない。
どうにかならないだろうか。
今のスタンスを崩す事ができない限りどうにもならないよね。知ってた。


「折角なんでコイツを試します。俺の風下には行かないでください」


シャチの背中を見送ったペンギンがそう言って懐から小指サイズのアンプルを取り出した。
中には黒と赤と緑と灰色のマーブル模様の液体が入っていた。


「なんだそれは」


反射的に聞いてしまったのは迂闊だった。
明らかにヤベーやつじゃん。
聞かなくてもわかるほどヤベーやつじゃん。
聞きたく無いんだが。
しかしペンギンは得意げに語りだした。

「まだ動物実験の段階で人に使った事はないので正確にお伝えする事はできないんですが、成人男性の致死量は0.03mg程度だと思います。そして密封状態では液体として存在していますが、外気に触れる事により気化します。ガスになると無色無臭です。これを吸引した場合、3分ほどで全身の皮膚が過収縮を起こして裂け始めます。さらに、腹筋や横隔膜が過収縮を起こし、それと同時に食道括約筋が弛緩するので内臓を吐き出すことになりますね。それから背筋の収縮によって背骨が折れるます。因みに皮膚からも吸収されます。なかなかユニークでかわいいヤツでしょう?」


内容が頭に入ってこなかった。血液脳関門が情報伝達物質の受け取りを拒否しているに違いない。
ペンギンは興奮すると早口になる癖があるが、今すごく早口だった。そしてすごく楽しそうだった。
とにかくこいつの風下には行くまい。心に固く誓う。
ペンギンはうっとりとした表情でアンプルを眺めている。
ヤベー奴がヤベーもん片手にヤベー笑みを浮かべている。
恐怖を隠して笑うしかなかった。
トラファルガーも楽じゃないぜ。ぴえん。
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