Buonasera! | ナノ


▼ 02

朝ご飯のために私は食堂へと足を運んだ。


行ってみるとそこは人の数がすごい。


先輩たちもみんな同じ場所で食事をとるみたいで、とにかく密集している。



どう、しよう。


これは、さすがに席がない、かな。



「芹菜」

「!!あ、朔名!!」




昨日ぶりに会う朔名。

制服姿の兄には未だに慣れないけど、この学校に慣れている人が身近にいるのはとても心強いと思った。




「席ないなら俺んとこ来いよ、まだ空いてるから」

「ほんと?じゃあいこうかな」



今気づいたけど、朔名の制服の校章の上に星が2つついていた。


多分、ランクを表しているんだと思う。


ということは朔名は二ツ星ってことか。




…………。




「朔名すごくない!!??」

「はァ!?な、なんだ急にどうした!?」


ビクゥゥッとした朔名がこちらに振り返る。


え、だってあと星1つとれば最高ランクの三ツ星になるわけでしょ?


すごいよ、まさか自分の兄がこんな優等生だとは思わなかったよ。





朔名に連れてこられたのはわりとはじっこの席。


そしてそこには先客がいた。




「あら、その子は誰?」

「もしかして朔名の彼女さんー?」

「ばーか、ちげーよ。こいつは俺の妹」




キャラメル色で少しウェーブのかかった肩までの髪の女の人に、長めの金髪で、左目の下に3つの石が埋めてある男の人。


どちらもものすごい美人だ。




「俺の妹の芹菜だ」

「は、初めまして!!よろしくお願いします!!」

「ふふ、固くならなくていいわよ。私は寿時雨、よろしくね」



にっこり笑う時雨、さんはすごくすごく綺麗な人だ。

同じ女であるはずなのに、ぽーっとしちゃうくらい。




ぎゅううう


「俺は黒崎愁、こちらこそよろしくねー」

「みぎゃあああああッ」



いきなり正面から抱きついてきた愁さんという男の人。

え、初対面だよちょっと待ちなさい!?



ガッ!!

「「やめろ」」

「ぐっ」



朔名の右足と時雨さんの右足が見事に愁さんにクリーンヒット。



た、たすかった……!!



「ったく、人の妹に勝手に手出すなっつーの」

「全く、可愛い子みたら見境なく抱きつく癖、直した方がいいわよ」



……助けてくれたのは嬉しいけど、あの、私可愛くはないです、そこは否定させてください。



「さ、愁のことは放っておいて朝食にしましょう」



さっきよりも笑顔な時雨さん、眩しいです。






朝食はいたって普通。


いつも朝はパンなんだけど、せっかくなので今日は和食にした。


うん、すごく美味しい!!





「でも、新入生って懐かしいわねー」


すでに食べ終わった時雨さんが頬杖をついてこっちを見た。



「時雨さんたちはいつからこの学校に?」

「私は5年前からよ、愁はその1年後」

「俺と時雨は幼馴染みなんだけどねー、俺の方が開花するの遅かったみたい」

「……開花?」



何の話だ?



「あら、朔名ったら芹菜ちゃんに何も話してないの?」

「あー、してねーな……。昨日はいろいろ忙しかったし」

「そう。ならちゃんと知っておくべきね」




そういって時雨さんはまた私へと視線をもどす。



「芹菜ちゃんは、この学校が誰でも入学できるわけじゃないっていうことは知ってるのかしら?」

「あ、はい、それは、聞きました」

「うん。その理由はね、その人に”素質”がないと駄目だからよ」

「……素質?」

「そう。それは生まれつき持っている人もいるし、途中で開花する人もいる。まあ生徒のほどんどは後者ね」

「……なるほど」

「私たち生徒はその素質の事を”心(ソウル)”と呼んでいるわ」



時雨さんが愁さんに目で合図をする。

そしてバトンタッチして今度は愁さんが口を開いた。




「心(ソウル)が開花しないと、この学校に入ることはおろか、見ることもできないんだ。この学校の周辺には特殊なフィルターがかかっていてね、一般人には多分、この学校が立っている場所はただの広場にしか見えないはずだよー」

「……へ?」



ふ、フィルター?




「それに、心(ソウル)によってその人が持てる武器や能力が変わってくるからね。だから心(ソウル)に関しては1番重要な…………、芹菜ちゃん?」





ちょっと待って。


武器って?

え、能力って何?


この人たちは何の話をしているの?





「……ねーえ、朔名。あなた芹菜ちゃんには何にも教えてないのね?」

「え、だ、だってよ、学校外で学校のこと話すのは禁止だし……」

「ええ、そうね。でも入学式始まる前とか終わった後とか時間はいくらかあったんじゃないのかしら?」



にこーっと、素晴らしい笑顔を朔名に見せる時雨さん。

怖い、ものすごく怖いです!!



「あ、あの、わ、私が、生徒手帳読んでなかったこともあるんで……」

「でもその様子だと生徒手帳に書いてあるってこと自体知らなかったんじゃないかしら」

「う……」


ええ、知りませんでした。




「朔名はあとで私の部屋に来なさいね?たーぷりお仕置きしてあげるわ」

「すすすすすみませんでしたああああ」



……兄の土下座、初めて見たよ。





「とにかく、この学校に入学できた以上、心(ソウル)が開花したのは間違いないから、第1関門は突破ってとこね」

「は、はぁ」

「次は武器、もしくは能力の開花ね。生徒はそれぞれ人によって戦い方が違うわ。武器を使って戦う人、能力を使う人、たまにどっちも使える人もいるけれど」

「の、能力っていうのは?」

「んー、まぁたくさんあるわねー。例えば水を操る人とか、超能力や魔法が使える人なんかもいるわ。あと、みんながみんな戦闘向きの能力を持っているってわけじゃないの。愁がいい例ね」





私は愁さんに視線を移した。

目が合うとにっこりと微笑んでくれた。



「俺の能力は”香り”。いろんな香りを操って相手の気分を上げたりできるんだー」

「へー、アロマテラピーみたいな感じですね」

「まあそれに近いかなー。使い方によっては香りで相手を痺れさせたり、誘惑したり、頭に直接香りを送り込んで洗脳することもできるけどねー」



怖ッ!?




「……私は何の能力があるんだろう」

「それはまだわかんねーなー」



食べ終わった朔名もまた頬杖つきながら私のほうを見る。



「もしかしたら能力じゃなくて武器のほうに開花するかもしんねーし?」

「それってどうやったらわかるの?」

「いずれ、としか言えないな」

「えっ、」



いずれだって?

なんて曖昧な……!!




「さっきも言ったけど、人によって開花するものは違うわ。とくに能力に開花する場合、見つけるのが大変ね。それぞれの能力に決まった見つけ方なんてないし、この学校が確認していない能力もあるもの」




うわー、なんか、本当に大丈夫なのかなって感じがする。





「さ、朝ご飯も食べ終わったし、私たちは授業を受けにいかないとね」




3人はサッと立ち上がる。




「えっ、あの、私、は……」

「新入生の初日はまず、武器、能力の開花の授業よ」



どんな授業だ。



「それぞれクラスごとに分かれて、自分は武器に開花するのか、能力に開花するのかを見極めるための授業ね」

「え、それってでも時間かかるって……」

「能力はね。武器のほうはすぐわかるわよ」

「……どういう、こと?」

「ふふ、行けばわかるわ」




そういうと、3人はそれぞれ授業があるであろう場所にいってしまった。



気がつくと食堂には人がいなくなっていた。


あれ、なんで……。



ゴーン……ゴーン……



あ、これ、鐘の音……授業始まりの音だ。


…………。





「遅刻ッ!!??」




私は急いで食堂をでて教室へと向かう。


場所とかクラスは自室の机にある紙に書いてあったから大丈夫。



でも鐘鳴り終わっちゃったからこれ完全に遅刻!!


やばいやばいやばいやばい。



マラソンランナーもびっくりの速さで走る……とか無理だけどとにかく走った。


確かあの角曲がって突き当たりの教室だったはず!!





ドンッ!!




「ふぶっ!!」




角を曲がった瞬間、何かに思いっきりぶつかり、そのまま尻もちをついてしまった。



ううううう鼻が痛いいいいい!!

少し涙目になった。
なんだよ私急いでるのに!!



「いったいなん……だ、って……?」




私がぶつかったのは物じゃなくて人だった。



その人はくるっとこっちを向く。




「大丈夫?」



私に手を差し伸べてくれた人。


緑色の髪で、左目に黒い眼帯をしている。




「あっ、あのごめんなさい、私急いでて思いっきりぶつかっちゃって……」

「うん、俺の背中に穴あくかと思ったよ」

「………」



それはないだろ。


つか失礼だろ!!

仮にも女の子に向かって穴開くとか私どんだけ体重あるの!?




そう思いながらも私は差し出された手を掴んで立ち上がる。



「君は、新入生?」

「え?あ、はい、そうです……って、早く行かないと遅刻!!」

「ああ大丈夫だよ、初日の授業はクラスごとでもみんな一斉にやるから、出席確認なんてしないし」

「……へ?」



とても知ったような口ぶりである。


よく見てみると、胸元の校章の上には星が1つ。


一ツ星の人、か。



「俺は新井光。君は?」

「あ、藍咲芹菜、です」

「クス……、敬語はいいよ。俺と同じ18歳でしょ?」

「うん……、え、なんでわかるの!?」

「読んだからね」

「……何を?」

「俺の能力は人の考え、思ってることを読むことができるんだ」

「それプライバシーの侵害じゃん!!」

「面白いこというねー、同い年とはいえ、仮にも先輩の能力に文句いうんだ?」

「すいませんでした」



新井くんの目の奥が怪しく光った気がした。


怖いですから!!






「芹菜ーっ、こっちこっちーっ!!」



新井くんと別れ、教室に入ってすぐに名前を呼ばれたと思い振り向くと、玲夢が手をふっていた。




「よかったーっ、部屋の場所は違うけど、クラス同んなじだね、あたし達!!」

「みたいだね」



一人じゃ心細いから玲夢がいてほんとによかったと思う。




改めて教室を見渡すが、いったい何人ここにいるんだろうというくらいたくさんいる。


というか教室広くない!?

この学校はどの教室もこんな感じなのかよ!!




そして教室の壁にはズラリといくつもの武器が並んでいる。


鎌、刀、銃、弓矢、などなど種類は豊富のようだ。



……なんて落ち着いてる場合じゃないよ。


私、武器なんて見るの初めてだよ!?


博物館とかで模型くらいなら見たことあるけど本物はさすがにない。


なんか、すごい迫力……。



「いってみよっ、芹菜!!」

「えっ?」



玲夢に手を掴まれて、そのまま武器の目の前まで連れていかれる。



うわあああ……近くでみると、やっぱりなんか迫力がすごいな……。


この刀とか、ちゃんと斬れるんだよね?




私は目の前にある刀を手にとった。




「……ん?……んんん?」



刀に触れるまではいい。


けどこの刀、ものすっごく重い。


持ち上げてるのにピクリとも動かない。



「んぐううううううう」

「……何やってるの芹菜……」

「助けて玲夢、こ、この刀重すぎて持ち上げられないんだけど……!!」

「じゃあその刀は芹菜には合ってないってことじゃない?」

「……ほよ?」

「自分の心(ソウル)と波長が合ったもの以外の武器は重すぎて使えないらしいよ!!」



……それを早く言ってくれ。



私は刀から手を離す。



なるほど、時雨さんがすぐわかるって言ってたのはこのことか。


つまり全部の武器に触れてみて、持ち上げられるものがあれば、それは自分が武器に開花したということ。


なければ能力に開花しているということ。




「でもこの数全部試すのは日が暮れそうだね……」

「だねー。そんなに重いんだこの刀?」



玲夢も刀に触れた。


ヒョイッ




「………」

「………」

「……持てちゃった」

「……持ててるね」

「なんだろう、嬉しいんだけどなんか虚しい」

「楽にわかりましたね……。でもおめでとう玲夢」

「……うん、ありがとう!!」






自分の武器を見つけたら担任に報告しなければならないらしく、早速玲夢は担任のもとへいった。


私もはやく自分の開花するもの見つけないと!!




そう思ってさっきからずっと試しているけど、どの武器も全く持ち上げられない。


すごくイジメられてる気分だ。



うーん、私は武器には開花してないのかなあ。




「いよっしゃーーッ、俺の武器きーまりーッ!!」




私の隣でそう叫んだ男の子。


持っている武器はかなりゴツめのランス。


いや、さすがにこれは開花してたとしても持てるような重さには見えないわ。



「ん?なんだ、どした?」



じーっと見てたせいか、その男の子が私に気付いた。



「あ、いや、随分重そうなのに軽く持ってるなーって……」

「そうか?確かにゴツいけど、見た目ほど重くねーよ?」



そういうと彼は片手でランスを持ち上げ肩に担いだ。




ええええそれを片手で持っちゃうの!?


開花すると、本人だけには重さ感じなくなるのかな?




「お前は武器見つかったか?」

「ううん、今のところ全く。もしかしたら私は能力のほうかも」

「なるほどなー、まあここでダメなら外いってふらふらしときゃ見つかるんじゃね?」

「すんごい曖昧!!」






私はとりあえず外に出てみた。

あの場所にいても自分の武器が見つかる感じしなかったし、まあ気分転換もかねて。


あ、そういえばさっきの男の子、名前聞いてないや。


赤髪で鼻の上に絆創膏してる男の子。


次会ったときでいっか!!




校舎をでて庭園を横切ると、かなり奥が深そうな森があった。



学校内に森とかあるのか。

この森入れたら学校の土地面積とんでもないことになりそうだ。




私はその森の中に入ってみる。


こんな都会じゃ森林浴なんて滅多に出来ないからいい機会だと思う。




「んーっ、空気がおいしいってまさにこのことだねー」


大きく深呼吸すると冷たくて気持ちいい風が体に入る。






「……ん?」




静かなはずの森の奥の方で何やら声が聞こえた。



何だろう、誰かいるのかな?





森の奥に進むにつれて聞こえてくる声。


どうやら1人や2人じゃないみたい。



と、いうか、なんだろう。

おー、とか、わーとか聞こえるけど……。




さらに進むと、広場になっている場合を見つけた。


へー、森の中に広場なんてあるんだ……。

いや、でもつくるならもっと校舎側につくったほうがいいんじゃないのかな。

ここまで結構距離あるよ?



そう思いながらも広場に足を運ぶ。











「危ないッ!!」




その声と同時に、私の目の前にはこっちに向かって飛んでくる複数のナイフがあった。






……え?


今、何が起きたの?



私の目いっぱいに広がるのは、黒。


背中にまわされたのが腕だということに気づくのはかなり遅かった。



ゆっくり顔を上げると、目にはいったのは金髪……。




「大丈夫だった芹菜ちゃん?」

「し、愁……さん?」




さっき会ったときと変わらない、柔らかな笑顔で私を見ていた。



えっと……、なんで私、抱きしめられてる、の?





「芹菜ッ!!」




朔名が切羽詰まった声でこっちに走ってきた。




「大丈夫か!?どこも怪我してねーか!?」

「え?う、うん」

「大丈夫だよー、俺がちゃんと助けたから」

「あぁ、ありがとな。……よかった、ごめんな芹菜」



すごくホッとしたような顔で私の頭を撫でる。



そっか、あのナイフ、朔名が投げたのか。


それで咄嗟に愁さんが助けてくれたと……。




………。






「……なんで朔名がナイフなんか持ってるの?殺し屋気取り?」

「物騒!!ちげーよ、ナイフは俺の開花した武器だから」




そういってナイフを見せてくれる。

へー、いくつも持ってるのか。





「んなことより愁、お前いつまで芹菜に抱きついてるわけ?」



急に朔名がジト目で愁さんを見る。



そういえば驚きすぎてそのまま会話してたけど、私は未だに愁さんの腕の中なんだよね。


……助けてくれたのは嬉しいけど恥ずかしいよ!!

そろそろ離していただけませんかね!?





「俺のおかげで芹菜ちゃんは助かったんだから、もう少しいいじゃん。ねー?」



ねー、じゃねええええええ!!

離せえええええ心臓もたないんですうううう!!




「だーめだ!!第一、実の兄の前で妹と男がいちゃついて黙ってる兄はいねーだろ!!」

「……朔名って相当のシスコン?」

「うるせぇ」





……どうでもいいけど私の頭上で言い合うのやめてくれませんかね。



私は気づかれないようにため息をついた。



ふと、愁さんの校章が目に入った。

というか抱きしめられてるから見る場所限定されてるんだけどね。



校章の上には星が3つある。




え……。




「愁さんて三ツ星なんですか!?」



バッと顔を上げると思った以上に近くにあった愁さんの綺麗な顔。


びっくりしてる間に朔名に首根っこ掴まれて引き剥がされた。



やばい、ちょっと、ぐえってなった。




「お前ら近すぎ」

「わー、怖いお兄ちゃんだねー」

「やめろ愁にお兄ちゃんとか呼ばれるとゾッとする」




あれ、私の話は無視!?






「芹菜ちゃんの言ったとおり、俺は三ツ星だよー。ちなみに時雨も三ツ星」

「えっ、時雨さんも!?」



いやすごいすごいすごい!!

こんなにも身近に三ツ星が2人もいるなんて!!





私は自分でもわかるくらいキラキラした目で愁さんを見た。

だってすごいじゃん!!

玲夢が言うには三ツ星は先生でもなるのが難しいってことだし、それを生徒である愁さんたちが取れるってすごいよ!!




「えっ、芹菜!?おま、なんでそんなキラキラした目で愁のこと見つめてんの!?」

「ふふ……、これっていわゆる恋する乙女ってことなのかなー?」

「だめえええ絶対だめ許さねーからお兄ちゃん許さねーから!!」

「朔名気持ち悪いよ」



うん、本当に。



朔名がこの学校に通い始めてから3年間、春休み以外は全く会わなかったからってこんなにキャラ変わる?


ってか朔名ってほんとにこんなだったっけ?






「あ、ところで朔名たちはこんな森の中で何してたの?」



改めてまわりを見てみると、みんな何やら武器を構えている。




「ん?あぁ、授業だよ、俺ら二ツ星生徒のためのな」

「……授業?」

「そ。なかなか三ツ星になるのは大変だからな。そのための特訓として三ツ星生徒が直々に相手してくれるってわけ」

「へー……」




だからナイフ飛ばしてたのか。


それに、確かにここらへんで特訓しないと危ないもんね。




「時雨さんもここにいるの?」

「ああ、時雨さんなら……あ、ほら、あそこにいる」



朔名が指差す方をみると、確かにいた。


他の生徒とちょうど特訓してる最中だ。




時雨さんを囲むように何か透明なものが渦を巻いている。



あれは……水?




「時雨はね、水を操る能力があるんだよー」



にこーっとしながら愁さんが説明してくれた。



水……、そんな自然のものも操れるんだ……すごい。





時雨さんが相手に向かって走る。


走ったことによって向こう側の森があらわになった。



あれ?

あそこにいるのって……、




「……翔音様?」

「んー?どうしたの芹菜ちゃん?」

「あ、あの、あっちに翔音様が……」

「ん?うん、彼もこの授業の参加者だよ」

「え?でも翔音様って三ツ星より上って聞いたんですけど……」

「うん、そうだよ。でもS.Sランクは彼1人で個別授業になっちゃうから、彼には三ツ星と混ざって授業受けてもらってるみたい」

「な、なるほどー」




でも、翔音様はとくに何をするわけでもなく、ただあそこに立っているだけだ。




授業に参加しないのかな?




「……でも、混ざるのはいいんだけど、彼の実力は桁外れだからねー。俺たち三ツ星とやってもなんの練習にもならないみたいなんだよねー」

「そんなに凄いんですか?」

「うん、俺は見たことないけどね。三ツ星になったのは最近だし、この授業自体そんなにないから見る機会もないし」



じゃあどんな能力もしくは武器なのかもわからないか……。






……って!!

私はまだ自分の能力もわかってないや!!



あー、はやく見つけないとなのにー。





「あ、じゃあ私そろそろ行きますね」

「もう行っちゃうの?」

「はい、私まだ自分の能力見つけてなくて……」

「そっか。でも焦らなくて大丈夫だよ、時間はあるからねー」

「頑張れよ芹菜!!」

「うん、またね」






しばらく森の中を歩いているが、さっきの広場以外にはとくに目立ったものはなく、静寂が続いていた。




うーん、能力ってどうやったら開花するんだろう?


あー、さっき愁さんにアドバイスとかもらうべきだった……馬鹿だ私、機会のがした。





……あれ、なんだろう……なんか、寒い?


妙に今歩いているところが肌寒く感じる。


森の中は確かに涼しいけど、これは涼しいとかのレベルじゃない。


え、待って!?

なんか冬みたいに寒くなってきた!?




すると、あたりに霧が出てきた。

な、なんでこんなところに霧……冷気?




頭にハテナを浮かべていると、前に人影が見えた。


目の前の木に体を隠して覗いてみると、




あ……、翔音様だ……。




彼の周りに白い冷気が漂っている。


何で……、もしかして翔音様の能力?





そんなことを考えていると、翔音様が右腕を横に伸ばした。



カカカカカッ!!




その瞬間、私が体を隠している木に勢いよく何が鋭いものが刺さった。




「ひょうわあああっ!?」



咄嗟に私は木から離れるが、バランスを崩してその場に尻餅をついてしまった。




「いっつぅー……」




腰を抑えてなんとか立ち上がろうとしたが、何故か足が動かない。


……え?




「……って、凍ってるううう!?」




私の右足は完全に凍りついていて地面に固定されていた。


な、なんで!?




ガサッと、草をかきわける音がした。



ゆっくり顔を上げると、こっちを見下ろしている翔音様がいた。




「………」

「………」

「……こ、こん、にちわー……」

「………」



やばい、バレた。


いや、別に隠れる意味なんてないんだけど、なんかこの状況はすごく良くない気がする。




「……何か用」

「えっ、いや……用っていうか、たまたま通りかかっただけ……なんだけど……」




そう言うと、興味がないとでもいうように彼は踵を返して戻ろうとする。



「あっ、ちょっと待って!!」



あ、あれ、なんかこのセリフいうの2度目だよね。




「……あ、のさ、この氷って、翔音様の能力……?」




あ、敬語忘れた。


……うん、いいや、なんかもうめんどくさい。



翔音様はこっちを見てるはいいものの、無言を貫き通す。


何も言わないってことは肯定してるってことでいいのかな。



「帰る前に、ちょっとこの氷溶かしてほしいなーって……、私、動けないんで……」

「……あんた星ナシ?」

「え?うん」




なるほど、と言っているみたいにめんどくさそうな顔をされた。


……星ナシじゃなければこんな氷すぐに溶かせるって言いたそうだ。


というか武器持ってれば星ナシでも氷割れそうだけど、生憎私は手ぶらだしね。





翔音様が右腕を上げ、軽く指で空中を弾くと、私の足の氷は簡単に砕けた。


わ……、なんか魔法みたいだ。



「……ありがとう!!」



凍らせたのは向こうだけど、お礼は言わないと!!





「……は?」

「え?」




妙な沈黙が流れた。





「……変なやつ」



ボソッと呟くと翔音様は何処かへいってしまった。



私なんか変なこと言ったっけ?

お礼しかいってないよね?





しばらくぼけっとしていたが、これ以上森にいても仕方ないので、私は校舎に戻ろうと立ち上がり、歩き出した。



そろそろ昼食の時間だよね。


何食べようかなー。



02.知らないことばっかり

頭が追いつかないよ



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