10


外に出てみると、雲ひとつない空でぽかぽかしている。
今日は春らしい気温だ。

絶好のお出かけ日和!!



デパートは最寄りの駅までいかないとない。
そこまではもちろん歩きでいく。




駅が近くなってくると人通りも多くなる。
休日だっていうのにほんと人がたくさんいるんだね。

学校が休みだからこそでもあるがバッチリメイクしたお姉さんたちやワックスで髪型をキメた兄ちゃんたち、サラリーマン、小学生くらいの子たちなど、その数は平日よりも多いかもしれない。



私たちもその人混みの中をかきわけて歩く。
はぐれないように翔音くんの袖口をつかみながら私を先頭に歩いた。


普通逆だよね。






たどり着いた場所はこの駅で最も大きいデパート。
1階は日用品だったり雑貨店だったりレストランだったりが集まっている。
2階と3階は全てが洋服の店。
どのお店にしようか悩むところだけど、ほとんどが女性向けのお店なので今回の場合はそんなに迷うこともない。

といっても男性向けのお店でも10店舗近くあるけど。



まずはエスカレーターで2階までいく。
まわりにはずらーっと並んだ洋服の店舗。
私が買い物したくなるかも。



「さーて、どのお店からみて…………あれ?」


後ろにいるはずの翔音くんがいない。
エスカレーターのぼってたときは確かにいたのに。
下からあがってくるのは他の人たちばかりで彼特有の紫色の髪は見当たらない。

さっそく迷子!?


焦った私はエスカレーターの隣のガラス越しから下の階を見下ろした。


案の定、翔音くんはまだエスカレーターにいた。







のぼりエスカレーターを逆走して。



何してんだアイツはあああああ。




「かっ、翔音くん翔音くん早くのぼってこっち来て!!」



逆走する彼をまわりの人たちは吃驚したような顔でみているので私は慌ててそういった。

そりゃあそうだよね。
仮にも18歳の男の子が(しかも美少年)あんなことやってたら誰だって驚く。


翔音くんは私の声に顔をあげ、しぶしぶといった感じでエスカレーターをのぼりきってこっちまで来た。
その顔はしれっとしている。



「……いったい何がしたかったの翔音くんは」

「階段、動いてた」

「……そうだね」

「歩いてるのに前に進まなかった」

「逆走してたからね」

「面白かった」

「またやりたいみたいな顔しないでくれる」



心なしか目輝いてません?
無表情でわかりにくいけど、なんか楽しそうだよ。


私はため息をついた。
まぁ記憶がないのだから仕方ないけど、まるで幼い子供といるような感覚だ。




でも、彼の無表情がちょっとでも喜びにひたっているのは私にとっても微笑ましいかな。

あ、でも今みたいのまたやったら対応に困る。





「さっ、服買いにいこ」



今度はちゃんと隣を歩くようにした。
さすがに人混みでもないのに袖口つかむのは変だと思うしね。


付き合ってるならまだしも。






とりあえずこのエスカレーターから一番近いところから順にまわってみよう。
初めて来たんじゃどんな服が売っているかなんてわからないし、気に入った服があれば何らかの反応があるだろう。

お金も結構多めにもらったしね。



まず最初にはいるのはエスカレーターからみて左手にあるお店、『A.Chain』。
モノクロを基調とした服が多い。
いわゆるロック系のお店だ。


まぁはいってみよう。
私的にはこういう服は似合うと思うんだよね、翔音くんに。



店にはいると、ロックな服がずらーっとかかっている。
パッと見全部同じにみえるんだけど。

翔音くんも中にはいってキョロキョロと見回しているようだ。
気に入った服が見つかればいいな。





「あれ、女の子がこの店にいるなんて珍しいですねーっ」


一着ずつみていこうと思ってかかっている服をかき分けながらみていると、話しかけてきたのは店員さんだった。


うわっ、いったいいくつピアスあけてんのお兄さん!?



さすがこの店の店員さん。
金髪だし、盛ってるし、ピアスすごいし、服もロックだ。
私はこういう格好をした人と関わる機会がないから、間近でみると迫力が……。



「こーゆー服、好きなんですか?」


営業スマイルで話しかけてくるお兄さんに思わずたじたじになる。

店員さんはより売り出している服に好感をもたせるためにこうやってお客さんに話しかけたりしているのだろうけど、私はそれが苦手である。

だからいつも曖昧に答えているけど、今回は私の服を買うわけじゃないからそれはマズイだろう。



「あ、えっ……と、連れの洋服を選びに……」

「お連れさん?」

「はい、………あ、あそこにいる紫色の髪の人の、です」



ちょっと離れたところにいる翔音くんを指差すと、お兄さんもそちらを向いた。
お兄さんが彼のほうに歩いていくので私も後ろからついていく。



翔音くんはマネキンをじっと見ていた。
そしてあろうことか、マネキンの顔の前に手をかざして“おーい、大丈夫かー?”みたいな感じで手をふっている。



ちょ、生きてないからねそれ。
マネキンだから。
そんな真っ白な人間いてたまるか。

prev / next


back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -