10


「何か気に入った服ありましたー?」


お兄さんはマネキンの前にいる翔音くんに話しかけた。
翔音くんの不思議な行動については見事にスルーだ。



「……これ」


彼が指差したのはマネキン。
白の長袖で黒で龍のようなものが描かれているトップスに首には黒いストール、ボトムスはダボめのジーンズ。
ベルトなんかシルバーの装飾がすごい。



「あぁこれですね。結構人気なんですよこれ」



いや、違うよお兄さん。
多分翔音くんが気に入ったのは服じゃなくてマネキン。




「……翔音くん、残念だけど買っていけるのは服だけであって、この真っ白な人は買えないからね」

「…………ふーん」



あ、ちょっと落ち込んだ。



「で、どうする?このマネキンが着てる服買うの?」

「……買う」



名残惜しそうにそう答える。
そんなにマネキンが気になるのか。



「この服ね。えーっと……」


お兄さんはマネキンの服を確認すると、その近くのラックにかかっている服の中から選びだす。




「あったあった。じゃあお会計するんでこちらへ」


そううながされ、私達はついていった。





「はい、5050円になります」


うん、まぁこんなものか。
財布から1万円札をだして払う。
朔名からは2万円もらったからあと上下あわせても2、3着くらいは買えるだろう。





「この服、彼氏さんにプレゼントですか?」



「……へ?」



にっこり笑っていうお兄さんに目が点になったのはいうまでもない。



「きっと喜びますよ、彼もこの服気に入ったみたいですし」

「あの……、かっ彼氏って……」

「?もちろんお隣の方のことですよ」


お兄さんは私の隣にいる翔音くんに目を向けた。
彼は彼でレジの近くにあるマネキンに目を奪われているけど。



「いや、別に彼氏なんかじゃないです」

「あははは!!そうですか。はい、じゃあこれ品物です」



手渡された袋を受け取ってお兄さんに視線を向けるとニコニコとしている顔が目にはいった。


絶対信じてねーなちくしょう。
男女でいたらみんながみんな付き合ってるだなんて勘違いもいいところだこのやろう。




なーんて口が裂けてもいえない。




1着目の服を買えたので店をでた。
どうせ買うなら違う系統の服を買ったほうが得だと思うし。


翔音くんをみるといつもと変わらない無表情だけど、ちょっと落ち込んでいるような……。



「……そんなにマネキンが気になるの?」

「まねきん?」

「あれは洋服売ってるところなら大抵あるよ。ラックにかかったままより人形に着せたほうがどんな風に着こなせるか実感わくでしょ」

「……買えないの?」

「あんなの家に置いたら夜怖いだろーが」



実際私は小さい頃はマネキンが怖かった記憶がある。
理由はよく覚えていないけど、“怖い”ということだけははっきりと覚えている。
今でもちょっと苦手かもしれない。

というかマネキンが欲しいだなんて……。
翔音くんの趣味がわからない。






次にはいったお店はさっきのモノクロの服ではなくカジュアルな服が多かった。
翔音くんが選んだのは赤チェックのブラウス、紺色と白の2枚重ね着用の長袖、、黒の前あきのベスト、黒いズボン。

これだけ買って約2万円。
うん、ぎりぎり足りたかな。



レジで会計を終わらせて翔音くんを探してみると、彼はまた例のごとくマネキンといた。

今度はさっきの真っ白なのではなく、木でできたものだ。
これは腕や指がいろんな方向に向くようになっている。


翔音くんはそれに気付いたようで、腕をあらぬ方向へと向け、出来上がったのは埴輪のような格好をしたマネキン。





「何マネキンで遊んでんだああああ」



「……かっこいい」

「どのへんがっ!?」



店員さん苦笑いだよ、困ってるよ!!



お店をでるとき、マネキンをもとに戻して店員さんに謝った。
もちろん私が。

最終的には微笑ましそうにしてたけど、

「君の彼氏さんは面白いねー」

とかいわれて殴りたくなったのは秘密だ。
彼氏だなんてことがあった日には私の身体がもちません。



小さい子を育てる母親ってこんな気分なのだろうか。



10.好奇心旺盛で結構

(はぁ……もう帰るよ)
(…………………)
(って、何でまたエスカレーター逆走してんの!!)
(楽しい)

((ああああもう置いて帰りたい))


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