時が経てば経つ程に、世界は色を変え人の心も移ろうものだと言われていた。だがしかし、その先にどのような運命が待ち受けているのかを、人類が知る術はないのである。


涙で世界は救えない 06



「隊長、少し痩せたな」
「先輩も、思いました?」
風船から空気が抜けるような音を立てて自動扉が閉まる。安息の地にたどり着くことは出来ても、そう簡単に過去は塗り替えられない。豪快さの中にも少しの疲労を見付けてしまったことを複雑に思いながら、アルトとルカは顔を見合わせた。
「それに気付けるのなら、貴様らはもう少し前を向け」
ラボの中央にあるメインデスクに広がる電子地図を見つめながらブレラが静かに口を開く。
「とは言え……現実的に考えても、なかなか上手くはいかないものだな」

彼の眼下に広がるのはまさにこの星の開拓図であった。当初の予定よりも進行の滞っている地域が増え始めている。いつまでも上陸させたフロンティア船団を使って暮らし続けるわけにはいかない。
この星で暮らすと決めた以上、星を隅々まで調査し、それに適応していかなければ人類の未来は酷く味気ないものになるのであろう。

「食糧についての問題はまもなく解決すると思います。広すぎるためその全貌は明らかにはなっていませんが、生物の住む“海”が見つかりました」
「生態系に影響は出ないのか?」
「学者たちによれば、きちんと管理さえすれば問題ないそうです。落ち着けば僕らが食べ慣れた魚も養殖も可能になるだろうって」
ブレラの隣に立ったルカはデスク脇のボタンをいくつか押して操作する。すると、平面地図が立体ホログラムへと変わり、3人の前には球体のすなわちその星の姿が現れた。
「僕らが着陸したのが此処……そして、ここからがそうです」
「思っていたよりも近いんだな」
「はい。ただ、辿り着くまでの地盤に少し特殊な電磁波を放つエリアあって。10機近く墜落させる結果になりました。地盤を掘り返して調べあげましたが、やはり今までに触れることすらなかった成分が含まれていました」
でも、今はもうこのエリアの上空も飛べるようになってます。そう付け足しながらルカはブレラの前にファイリングされた資料を広げるように出した。
「たとえ時間はかかっても、一つずつ潰して行く選択しかないのだろうな」

デスクの側にあるソファーへと腰を落としたアルトは1度大きく伸びをしてからその頭を背に預けて天井を見上げた。
「外から見ているだけじゃこの星はただ綺麗なだけでよく分からないけど」
大気の層が複雑に重なっているからだと苦笑まじりにアンジュが教えてくれたのを思い出してそっと目を閉じる。今でも鮮明に憶えている。
肌に触れる風、柔らかい陽射し、樹々の葉の擦れる音や大地の薫り。初めてこの地に降り立ったとき、こんなにも生命に溢れている場所があるのかと目を疑った。そして、心に決めたのだ。
「ボロボロになって辿り着いたこの星で、俺たちは大切な人達と生きる道を選んだ」
「ええ。少しずつ、前に進みましょう」

アルトの言葉に感化されたルカがグッと掌を握り締める。目敏くそれを見付けたブレラはそっと息を吐き出すように笑い、2人の耳には到底届かぬ声で呟いた。


「人は1人では生きられない、か」


20170401
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