お姫様は蚊帳の外
「コイツ、初心だから。今も耳まで真っ赤よ?」
「っ、うるさい……」
「うそ。やだ、ごめんなさいッ……私ったら、その……」

パッとアルトの手を離したリラはバツが悪そうに俯く。そしてそのまま両手で顔を隠すように覆う。情けなく下がった眉尻だけがちらりと見えた。
「大丈夫よ。貴女が相手をよく知るためには必要なことだもの。それが分かってるからコイツも引けなかったわけだし、ね」
「まぁ……そう、だが」
お前は完全に面白がってるだけだろ。ぼそりと呟くようにアルトが言えば、シェリルはキッと横目に睨んでその頬をなんの躊躇いもなく抓った。
「痛ッ! お前はほんとにっ!」
「ほらリラ、行くわよ」
「もうシェリルっ。あの。早乙女くん、本当にごめんなさい」

シェリルによりやや強引に腕を引かれたリラは、先程よりも少し声を張るようにそう言った。そして、あくまで自分のペースでグイグイと進んで行くシェリルに向かって、まるで小さく悲鳴をあげるようにその名を呼ぶ。
「シェリ、ルってば!ちょっ、と……ねぇ、速いッ!」
「だって信号が変わりそうなのよ。ほらリラ、頑張って」
「もうッ!それホントッ!?」

慌てながらも必死でシェリルについていくリラの背中をアルトが少し微笑ましげに見ていると、ふとシェリルが振り返った。そしてあからさまに敵意をむき出しにしてアルトを強く睨む。
そうなると鈍いアルトでも流石に察しがいく。はじめはただ女性というものに慣れていない自分をからかっているものだと思っていたが、どうもそうではないらしい。
おそらくは、牽制。

「……お前が会わせたくせに。勝手な奴」

ようやく点滅し始めた信号の青を見つめながら、これは渡らない方がいいなとアルトはひとりごちる。その先にはグレイスがまわした車にリラを乗せるシェリルの姿。チラリと此方を見た彼女が「じゃあね」と音を出さずにそう言ったのが見えた。
幸い、家までは一駅分歩けばいいだけだ。

20170320 Takaya
そして、いつか知るのだろう
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