■見たかった
「〜♪」
名前は鼻唄を歌いながらチョキチョキと写真を切っていた。
「うん、いい感じ♪」
何故、こんなことをしているか。
理由は簡単。
名前はたまたま帝光中時代のアルバムを見つけ、暇だったからノートに出来事毎に分け、貼っていこうと思ったからだ。
名前は赤司の彼女で、洛山に入学するという赤司を追って京都まで来た。
今は親公認の上、同居(名前曰く同棲)をしている。
「うーん…この征十郎の写真どうしようかなぁ…」
名前は上手く入らない赤司の写真をどう切るかに悩んでいるようだ。
「うー…あ!!涼太の写真も残ってる!」
黄瀬の写真を取ろうとしたとき…
ジャキ
「ぇ?」
名前はしてはいけない音を聞き、恐る恐る自分の手を見る。
と、
赤司の写真がキレイに首と身体に裂かれていた。
「や、っばい!」
いくら故意でなかったとしても流石に赤司は怒るだろう。
なんとかしなきゃと名前が考えていると、
コンコン
「名前?ご飯出来たぞ?」
「えっ!?」
運悪く、ご飯を作り終えた赤司が名前を呼びに来てしまった。
「どうした?食べないのか?」
「や、た…食べる!食べるけど…!!」
その前にこの写真をどうにかしなければ…
いつもなら飛んで出てくるのに、いつまでも部屋から出てこない名前に不信感を抱いた赤司は断りもなく名前の部屋のドアを開ける。
「せ、征十郎!?」
赤司が見たのは、
慌てた様子の名前と、首と身体に裂かれた自分の写真。
「なにをしているんだい?名前。」
黒いオーラを纏った笑顔で名前に話しかける。
「ひぅ!!
ちがっ…あの、これは…」
名前は必死に弁解しようとするが、ちょうどいい言葉が見つからず、オロオロとするだけ。
「ふぅん。
名前は俺の写真を切って遊んでるんだ。
それとも俺になにか恨みでも?」
なにがあってこんなことになったか大体予想はついているが、
敢えてなにも言わずに名前を責めるような口振りで言う。
「違う…恨みとかじゃなくて…」
半泣き状態で俯いている名前は赤司が至極楽しそうに口許を歪ませていることに気がつかない。
「じゃあなんで写真がこんなことになってるんだ?」
「ぅ…わざとじゃなくて…」
「わざとじゃない、ねぇ…」
赤司はふーんと、信じてないように言って、座っている名前と視線を合わせようとしゃがむ。
「ご…ごめんなさい…」
遂に耐えきれなくなった名前はポロポロと瞳から涙を溢す。
「はぁ…」
赤司が溜め息をつくと、大袈裟なくらいビクリと肩を震わせる。
「ぉ…怒ってる、よね?」
恐々とした様子で赤司の顔を伺う。
赤司は名前の予想と反してニッコリと笑みを浮かべていた。
「ちゃんと謝れたから許すよ。」
「っ征十郎!ありがとう!!ごめんなさい。」
ギュッと赤司に抱きつくと赤司は名前の背中をぽんぽんと優しく撫で、抱き返した。
「(まぁ、泣き顔が見たかっただけなんだけど。)」
(「なんか言った?」)
(「いや、別に?」)