Attention please

手を離したのは、

別れよう、翔一。その言葉は思っていたよりも簡単に口から零れた。
特に驚いた様子もなくただ翔一は頷いた。

「私のこと、好きじゃなかった?」

別れを切り出した私からこんなことを聞くのは卑怯だと分かってはいたけれど、聞かずにはいられなかった。
嫌いと言われるのが怖くて、スカートを握りしめる手に力が籠る。好きやったよ、言われて涙が溢れそうになった。
すでに彼の中では私は過去の人間なんだと思い知らされた気がした。
精一杯笑顔を浮かべて、翔一を見つめた。
珍しく開かれた彼の瞳には、確かに私が写っているのに。

「京都でも、がんばってね」

関西の大学を受験した翔一はこれを機に京都の実家に帰ると言う。
思えば私たちの間に変な距離ができたのも、本格的に受験に取り組まなければいけなくなった頃だった。
よく卒業間際までもったものだと思ってしまう。

「名前もな」

うん。今までありがとう。たったそれだけの言葉が、喉につっかえて出てこない。
どうして。なんで。
告白したのだって、別れを切り出したのだって、私だったじゃない。
こんな言葉、何の意味も持たない言葉のはずなのに。

涙があふれる。
ただただ音もなく頬を伝うそれを、彼はもう拭ってはくれない。
言葉はきっと嗚咽に埋もれてしまうから、私はゆっくり頷いた。

今までありがとうな。
彼に告げられてやっと合点がいった。
この言葉はすべてを終わらせるものだったのだ。
私たちの恋人関係も、私たちの幸せだった思い出も。
やっぱり私は卑怯者だったのだ。
最後の最後で彼に押しつけて。

だから、私も言わなければ。
彼と、同じ言葉を。

「今まで、ありがとう。」





2013.01.21
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