Attention please

溢れた涙

じりじりと太陽が容赦なく照りつけるのにも慣れた8月。
学生である名前はもちろん夏休みで、初めて彼氏の出来た今年は休暇を謳歌している。
はずだった。

「暇だなぁ…」

呟きながら宿題である問題集の最後の設問を埋める。
これで宿題は完全に終わり、本格的に夏休みを満喫出来る。
けれど、友人が多くない名前には遊びの予定など皆無に近く、しかも彼氏はモデルであり練習量の多いバスケ部のレギュラー。
メールをしたって返ってくるのは夜だし、返信のないことだってよくある。
優しい彼だから、次の日には謝罪のメールが来るけれど。
愛されている実感もあるし出来れば面倒な女とは思われたくないから基本的には自分の感情を隠している。
だけど、

「寂しい、かな…」

机に突っ伏して誕生日に彼から貰ったぬいぐるみを見つめる。
泣きそうになるのを必死に堪え、きゅうと目を瞑った。



気が付けば外はもう随分と明るくなっていて、時計も2時を回っていた。
どうやら一時間弱寝てしまっていたらしい。
ふと携帯が光っているのに気が付き開くと親友の友達(姉)の名前からメールが来ていた。
携帯をカチカチと慣れた手付きで操作し、メールを見ると彼氏の黄瀬君が近くでモデルの仕事の撮影をしているとのこと。

しばらく思案し、迷惑かなとも思ったが時間を持て余している訳だから行ってみるだけ行ってみようと決めた。
友達(姉)の名前にお礼のメールを返すと簡単に荷物をまとめ家を出た。

「見るだけ。声かけるとかじゃないもん。」

だから迷惑かからないよね、と自分に言い聞かせ、撮影現場である公園へ向かった。



思いの外撮影現場は混んでいて、黄瀬の人気の凄さを思い知らされる。
どうやら女性モデルとの撮影らしく、二人は密着していた。

「(し、仕方ないよ…仕事だもん)」

ぎゅっと手を握って無理矢理納得する。
けれど相手のモデルはどう見ても黄瀬に気があるようで、しかもとてもスタイルがいい。
お似合いだな、と思った。

少しして、撮影が終わると黄瀬は周りに挨拶をして帰る準備を始める。
それを引き止めるように女性モデルが近寄った。
が、石に躓き黄瀬に抱きつく形となる。
女性モデルは頬を赤く染め、黄瀬にお礼を言っている。

どくりと心臓が脈打つ。
泣きそうになって、その場を離れようとした時、黄瀬と目が合った。

「…っ」

気が付けば走り出していて。
ただ何となくその場に居てはいけない気がして人通りのない路地裏に入っていった。

「…名前っ!」

名を呼ばれたと同時に腕を掴まれる。
振り返れば走ってきたのか、息を乱した黄瀬がいた。

「…さっきの、なんスけど」

「き、気にしてないから!!凄い綺麗な人だったね。お似合いだったよ!」

気にしていないわけがないのに、そう言ってしまう。
無理矢理笑みを作って言えば黄瀬は眉間に皺を寄せる。

「なんで、いつもそうなんスか?」

「……え?」

「なんで名前はいつもそうやって言いたいこと隠して本当の気持ち教えてくれないんスか!?」

ぎゅうと強く抱き締められて、また涙がうっすらと浮かび上がる。
言っちゃっていいのかな、と思いながら恐る恐る口を開いた。

「面倒な女って、思われたくなくて、迷惑かけちゃいけないって、我が儘言っちゃダメだって、思って、黄瀬くんに、嫌われたくなくて、」

弱々しく黄瀬に腕を回す。
するとより強く抱き締められる。

「黄瀬くんに、捨てられたくなくて。
黄瀬くんが、好きだから。」

ぽろりと涙が溢れた。
黄瀬は小さく笑って、その涙を拭う。

「俺、名前が思ってるよりベタ惚れなんスよ?
だから、もっと我が儘言って欲しいっス」

そう言われて、再び涙が溢れた。

「じゃあ、キスして…?」

名前が言い終わると、黄瀬はすぐに触れるだけのキスをした。




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