遠くから誰かが俺を呼ぶ声がした。どこか懐かしいような、そんな声

“   …〜っ!”

あれは誰だ?なんで俺を呼んでる?俺は………



「………っは!」
はあはあと息をしながら跳び起きてみれば、そこはいつも通りの俺の部屋。蒸し暑い、べたべたする。ベッド脇の時計を見ると昼の12時を回っていて、少し寝過ぎたな、なんて考えながら、ベッドから降りる。

なんだったんだろう。さっきの夢

「ま、いっか。」


ふと、下の方から蓮と呼ぶ声が聞こえた。兄貴だ。あれ、今日は大学じゃなかったかと思いつつ、俺は階段を下った。


「なんだよ、兄貴」
「やっと起きたか」

エプロンを着けてキッチンに向かっている兄貴。どうやら昼飯らしい。

「買い物する暇なくて、フレンチトーストだけど、いいか?」

兄貴がそう言いながら皿を差し出してきた。メープルシロップの甘い匂いが俺の食欲をそそる。

「さんきゅ!うまそー」

食卓に向かい合って座り、フレンチトーストを食べ始める。やばい、うまい。やっぱり兄貴が作る料理はやばい。特に甘いものは最高だ。

とは言っても、男2人フレンチトースト食べてる図ってのもなんかなあ、と思いつつテレビをつけた。


「お。ハリポタもーすぐラストの映画公開じゃん!」
テレビでは大ヒットしているハリーポッターの映画予告が流れていた。俺も好きで、小説全巻持っている。


「それより俺はマクロスが見たい!ランカたんかわゆす…!まあ魔女っ子っていう点ではハリポタも…」

やべえ、兄貴のいつもの癖が…

「蓮!!!今度撮影…「やだ!!!!!コスプレとかぜってえしねーからな!」

嫌な予感的中だ。俺の兄貴は弟の俺がいうのもなんだがイケメンだ。それも特上の。料理もプロ並み(特にスイーツ)。スポーツも出来るし頭もめちゃくちゃ良い。なのになんで、なんでこーなっちまったかわかんねーけど


「いーだろ!魔女っ子…はあはあ」


兄貴は、



「この変態オタクがああああ」

バキッ!!!

「ぐはあっ」



重度のオタクなのである。

「蓮…ナイスパンチ…だ…」

俺に殴られた腹を押さえながら、うずくまっている兄貴。なんでかしんねーけどこいつ、隙あらば俺を女装とか色々コスプレさせて撮影しよーとしやがる。変態すぎるだろ…もうこんな兄貴嫌だ…。大体俺男だし。女装とか普通にイヤだし。魔女っ子って馬鹿だろ…


はあ、と深い溜め息をつきながら食べ終わった皿を流し台へ運び、部屋へ戻ろうとリビングを出た。


でも、魔法使いか…なれるもんならなってみてーよな


 “なら、おいでよ” 


「え」

その瞬間、階段を上っていた俺は足を滑らせて下に落ちた。