::D3パラレル



おれ、エース。21歳。
男に惚れました。

「エース!はよー。」

聞き間違えるはずのない声に振り向くと、思ったよりも近くに彼がいて驚いた。どうやら小走りで近づいていたようだった。
まるで、初めて彼を見た時みたいに。

だいぶ前から・・・ぶっちゃけ、初めて彼を見たその時にもう恋してました。

「おはよ、サンジ。」




振り返ればなんてことはない、昨日。きっとサンジにとっても。
おれにとっては・・・ああ、とにかくすごいことだったんだって。聞きゃあ分かるんだって。

――――昨日エースは合コンの帰り、弟のルフィに貸していたCDのことを思い出し、値段の割に―――ちなみに4万と5千だが―――しっかりしたアパートであるルフィの家に向かった。
家のドアを開けると、中からはなんとも食欲をそそるうまそうな匂い。ついさっき合コンでそれなりに腹にご飯を入れたというのに、その匂いをかいだ瞬間、胃にスペースが空くのがわかった。
(おれの弟がこんなうまいもんを出前にしてもなんにしても・・・なんつうイイもん食ってんだ?)
玄関で靴を脱ぎ、すぐ脇にある洋室へ荷物を適当にほっぽると、すぐさまリビングへ向かった。
ルフィの家はリビングの一角に小さなキッチンがある。
そこに人の気配を感じて、エースはそちらへ顔を向けながらリビングへ入った。と、同時に石化した。いや、石化よりもレベルが高かった。もはやそれはダイヤモンド。
「帰ってきたんならただいまくらい言えよ、ルフィ?」
そう言って、エースをルフィと勘違いしたまま言葉を紡ぎ、振り向いたのは天使・・・もとい、サンジであった。
「・・・あえ?誰?ルフィの知り合い?親戚?」
キョトンとしたかと思うと、まるで警戒心なしに、んんん?と首を傾げはじめた目の前の青年にエースは、たっぷり心の中でうろたえたあと、緊張でかすかすな声を振り絞った。
「・・・・・・・・ルフィの、兄、デス。」




サンジが合コンを急に帰ることになったのは、何を隠そうエースの弟であるルフィがサンジにご飯をねだったからであった。

「エース、今日なに取ってる?」
「あー、っと。フランス語。3限目。」
「ふーん。」
「サンジは?」
「ぁえ?ああ、おれ、今日課題やりに来ただけ。」
「あ、そーなの?」
「うん。」

普通の会話ができていることに、エースは内心ホッとした。
というのも、あまりに昨日エースは取り乱した姿をサンジに見られまくったからである。

あれだけ話したいと思っていたサンジとの初の会話が、ぎこちない片言あったことに多少なりともショックを受けたエースだが、その後タイミングよく(悪く?)帰ってきたルフィとサンジの仲の良さを見せられたことに、まだサンジへの恋心を自覚していなかったエースは呆然とした。
それでも、ウズウズとした恋心をくすぶらせて目の前のサンジの言動に一喜一憂するだけの自分が、エースはひどく子どもに思えた。

そのウズウズとした恋心も、サンジの前でゆるりと溶け始め、特におもしろいことも話していないのにエースはへらりと笑った。
サンジのテリトリーは、やはり不思議だ。

エースが、ほわほわとした無防備なサンジの笑顔にドキリ、としたとき、昨日と同じようにもう一人の人物が現れた。
「サンジ〜〜〜〜!!!!」
遠くから聞こえていた気がする声が、目の前で聞こえたかと思うと、次の瞬間には勢いよく目の前に黒い物体が出てきた。
「わっ、ルフィ!」
背中に思い切り抱き着かれたサンジがたたらを踏んだ。
そのサンジの動きごと封じ込めるようにルフィがさらに力を込めている、ように見える。

「おい、歩けねえって。」
「ん〜〜〜〜おれがサンジおぶったらサンジ歩かなくて済むな?」
「そういうことじゃねえーよ。離せって。」
そういうサンジの表情はどこか柔らかい。

エースは、ぼんやりと昨日の出来事をまた思い出していた。
昨日片言で挨拶を一方的に交わしたエースだが、そのときもやはりルフィが乱入し、『ドキドキ初顔合わせ』は早々に終わってしまったのだった。
「サンジ〜〜〜!!!ハム!!!買ってきた!!!!」
馬鹿でかい声でずかずかと帰ってきたルフィは、ちぎれんばかりに右腕をぶんぶん振り回した。
「お、おかえりルフィ。振り回してねえでさっさとよこせ、ハム。」
「おう、これでチャーハンできるな?!」
「ああ、とびっきりうまいのがな。」
そのときのサンジの笑顔で我に返ったエースが、あの、と声を発したことでやっとルフィに姿を認められ、やっと自己紹介ができた。(と言ってもルフィの紹介は、「おれの兄ちゃん!」の一言だけであったが)
エースはよほど気の合わない限りは誰とでもすぐ打ち解けられる。サンジも、見た目に反して中身とその根は、人懐っこくてスキンシップが好きな性格だ。
特に相反する理由もなく、エースが必要以上に緊張していること以外に二人が名前で呼び合い仲のいい友達と言ってもいい関係になるまで、半日もいらなかった。


自然と、サンジを真ん中に、両脇にエースとルフィが歩けば、サンジはなんとなく二人を相手に話すことになる。
まだ9時前の、人通りは少ないが広い道を歩きながら3人は雑談に花を咲かせていた。

話が一段落ついたとき、ルフィがにしし、と笑った。
「サンジ!今日の昼飯なんだ?」
「ん?ああ、ルフィ、おまえ今日うち来いよ。来週の月曜祝日でその日店開けるぶん今日休みだから。」
「行く!!」
キラキラと目を輝かせるルフィにサンジは満足そうに笑うと、エースを振り返った。
「アンタも来いよ。いっぱい作るから!」
そう言ったサンジは、頬をほんのり上気させサラサラの髪をふわふわ揺らしていた。まるで踊ってるみたいに。
一瞬ポケ、としてそのサンジを見つめたエースは、料理することが楽しいんだ!と体いっぱいで表現する可愛らしさにたまらなくなって笑った。





to be continued. ⇒

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