それは一生の秘密事 1
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 ごめん。利用した。



「何、イキナリ?」

 駅ビルの最上階、レストラン街にあるベンチに座った色素の薄い頭の持ち主。それを見下ろしながら、俺――間宮哲(まみや・てつ)は訊ねた。長身の身体を折り曲げて、姿勢正しく腰掛けている友人・藤原冴香(ふじわら・さやか)の顔を覗き込む。

「だから、ごめんって言ったの」

 彼女は俺と目線を合わせることなく、ぼそりと呟いた。それに俺は眉をひそめる。

「謝られる覚えがないんですけど」

 いくら思い出してみても、心当たりがない。むしろ謝らなければならないことのほうが、後から後からわいてきて。

 首を捻るばかりの俺を見上げて、藤原がこれみよがしにため息をついた。それを見て、俺はぽりぽりと頭を掻く。

「わかんないんだけど……」

「わたしのね」

 俺の科白を遮るように、彼女は口を開いた。視線は正面のエスカレーターに向けられている。後から来るはずの人間の姿を探しているのだろう。俺もそれに倣って、藤原から視線を外した。ぼんやりと同じ方向を見ながら、彼女の言葉の続きを待つ。

「思い過ごしならいいんだけど」

 そう前置きして、彼女はまた俺を見上げた。

 ――あ。この目は苦手だ。

 俺は瞬時にそう思って、できるだけ自然に視線を他に移した。しかしやっぱり藤原は気がついて、嗜めるような声をあげる。

「間宮?」

 ヒトと話すときには相手の目を見ようねー。部活でメニューの指示をするときと同じような迫力のある声色で、彼女は言った。悲しいかな、俺はそれに逆らえない。

 この女王様は気に入らないことがあると、そのお怒りを練習メニューに反映してくる。しかも考えなしではなく、きちんと相手の弱点克服を考慮した上でのメニューを組み立ててくるのだ。結果的に部のためになっているので、文句のつけようがない。藤原冴香はそういうことを、躊躇なくやる女だ。

 そんなこんなで、骨の髄まで彼女に教育されてる身分としては、逆らう余地などありはしない。仕方なくため息をついて(せめてもの抵抗だ)、俺は渋々彼女に視線を戻した。

「ナニ?」

 無駄と知りつつも、ちょっと不機嫌そうに応じてみる。しかし藤原は動揺する様子もなく、さらりととんでもないコトを口にした。


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