彼と向日葵少女
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 彼女はいつだって、まっすぐだ。

 誰にも媚びない、揺るがない。自分が欲しいもの、正しいと信じてるもの、それに向かってまっすぐに背筋を伸ばして、顔を上げて。

 それはまるで、真夏の太陽を追う向日葵みたいに。

 俺にとって、彼女はいつもそう見えた。そこいらのヤローなんかじゃ太刀打ち出来ない強さを持った、特別製のオンナノコ。

 だから、そんな彼女の『あんな表情』を目にすることになるなんて――俺はそのときまで、欠片も思っていなかったんだ。


*  *  *


 それは秋行事の準備で忙しい日々の合間を縫った、ある放課後のこと。

 俺――間宮哲(まみや・てつ)は、自分のクラスの教室で、長年の相棒に数学の教えを説いてもらっているところだった。

「哲、あと五分」

 人の少なくなった教室に、本日の講師・曽根隆志(そね・たかし)の声が響く。タカの声は低いし、普段から愛想ねぇから、こういうときに聞くとめちゃくちゃビビる。

「ごめんなさい、あと十分粘らせて下さい」

 俺がへらへらとそう告げると、タカが鋭い眼光でこちらを見た。愛想笑いが思わず引きつる。

 タカが舌打ち混じりに言った。

「お前、五分前も同じこと言ってたろうが! こんだけ時間かけて出来ねぇんだったら、あと一時間やったって出来ねぇよ!」

「うわヒドイよ、その言い方! ちょっと瀬戸(せと)、お前の彼氏、人間的にかなり問題ありだよ! ホントにこんなのと付き合ってていいの?」

 タカのあまりの言い分に、俺は自分の斜め前に座っていたヤツのカノジョ――瀬戸初璃(はつり)に泣きつく。彼女は困ったように微笑みながら、ちらちらと隣のタカの様子を窺った。瀬戸の手元には俺と同じ、数学の問題集が広げられている。

 今日の瀬戸はタカのカノジョである以前に、俺と同じ『生徒』なのだ。なので、タカの機嫌を損ねたくないんだろう。

「……わたし、ノーコメントで」

「ひっでぇの! この裏切り者ーっ!」

「つーか、その言い方は『文句があります』って言ってるようなもんだぞ」

 すまなそうに告げられた瀬戸の言葉に、俺とタカはそれぞれ口を開く。瀬戸は慌てて首をぶんぶんと横に振ると、まずはタカに向かって言い訳をした。


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