いちばん悪いのだーれ? しおりを挟むしおりから読む目次へ それは、春休みももうすぐ終わる部活日和のある日のことでした。 新入部員をきれいな部室と道具とグラウンドで迎えましょう。 野球部マネジ・藤原さんのそんな呼び掛けにより、今日も今日とて野球部員とそのカノジョさん達はこき使われ……もとい、自発的に働いておりました。 そして、事件はそのとき起こったのであります。 「藤原ー、これ全部部室でいいのか?」 備品の買い出しを任された主将の成瀬(なるせ)くんが、両手に持ったビニール袋を掲げて訊ねました。呼ばれた藤原さんは、ボールを磨く手を止めて答えます。 「うん、全部持ってっちゃって」 そして隣で同じように、ボール磨きに勤しんでいた綾部(あやべ)さんに声をかけました。 「悪いけど、成瀬手伝ったげてくれる?」 「はーい」 綾部さんは素直に返事をして、成瀬くんの元に駆け寄りました。 「どれ、持ってけばいい?」 「ああ。んじゃ、この軽いの頼むよ。俺、もうひとつの荷物取ってくっから」 「……いっぱい買ったんだねえ」 驚いたように呟く綾部さんに、成瀬くんは苦笑いして言いました。 「特売だったから。藤原にポイントカードまで持たされたんだよ」 「冴香(さやか)ちゃん、主婦だねえ」 今度は感心したように呟く綾部さん。そのまま二人は他愛ない話をしながら、部室へと向かいました。 野球部の部室は、グラウンドから少し離れた場所にあります。 それなりに重い荷物を抱えた二人が扉の前にたどり着いたとき、中から人の声がしました。 「ちょっ、ムリだってば」 「もう少しだから頑張れって」 それを聞いて、成瀬くんと綾部さんは互いに顔を見合わせました。 「間宮(まみや)と……」 「初璃(はつり)ちゃん?」 中にいるのはどうやら、野球部エースの間宮くんと正捕手のカノジョさんである瀬戸さんのようです。 成瀬くんと綾部さんは珍しい組合わせに、一瞬首を傾げました。しかし荷物を持つ手がつらくなってきた綾部さんは、気にすることなく扉に手を掛けようとして、慌てた様子の成瀬くんに手を止められました。 成瀬くんの顔は見事なまでに強ばっています。 部室から聞こえてきた会話の内容が、何だか変だったからです。 |