いちばん悪いのだーれ? しおりを挟むしおりから読む目次へ 「やっぱりダメだよ……」 「瀬戸がしたいって言ったんだろ?」 「そうだけど……」 いつになく強気な口調の間宮くんに、何やら瀬戸さんが押されている様子です。 普段に比べてずっと弱々しい声で、瀬戸さんが言います。 「でも、やっぱりムリだよ」 「そしたら、こっち乗っかってさ」 「やだよ、そんなの怖いもん」 「今更じゃん。大丈夫、俺に任せて」 「う、ん」 瀬戸さんが迷うように頷いた気配がしました。 (つーか……) 耳を澄ませて聞きながら、成瀬くんは思いました。 (何やってんだ、この二人……?) 聞きようによっては、めちゃくちゃアヤシイんですけど。 胸中でひとりごちて、成瀬くんは隣の綾部さんをちらりと見下ろしました。しかし彼女はよく分かっていないようで、きょとんと扉を見つめています。それに成瀬くんは心底ほっとしました。 ある意味、純粋な綾部さんはそこまで想像力が働いていないようです。 (どんだけ俺が想像力豊かかって話だよな……) 何となく自己嫌悪に陥って、成瀬くんは深々とため息をつきました。 「ねえ、成瀬」 「あー?」 「開けないの?」 綾部さんがまったく邪気のない瞳で見上げてきました。成瀬くんは困って、眉を寄せます。 「いや、何か、取り込み中みたいだし……」 「取り込み中って?」 「いや何つーか、その……」 別に何でもないのかもしれませんが、万が一何かあったらと思うと。 (血を見るかもしれない……) この場にいない瀬戸さんの彼氏や鬼マネジにばれたりしたら――。 そこまで考えて、成瀬くんは身震いをしました。 ここは何も聞かなかったことにして、立ち去るのが妥当な選択。自分と綾部さんの身を守るには、それしかありません。 「綾部、行こう」 そう言って、成瀬くんは綾部さんを促しました。しかし、綾部さんは不満そうに唇を尖らせます。 「これ片付けないと、冴香ちゃんに怒られるよー」 「そりゃ、そうだけどさ」 「何、揉めてんの?」 突然背後からかかった声に、成瀬くんはびくりと身をすくめました。 おそるおそる振り返ると、そこには――。 「荷物の片付けに、一体どんだけ時間かけてるのよ」 「まだまだやること、あんだからな。さぼってんなよ」 そこにいたのは、野球部の恐怖のツートップ――マネジ・藤原さんと正捕手にして瀬戸さんの彼氏・曽根くんの二人。 何だか絶望的な気分になって、成瀬くんは天を仰ぎました。 そんな彼を不審げに見ながら、藤原さんが綾部さんに訊ねます。 |