その愛、一粒二十円
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 学校帰りに寄ったコンビニの棚を見て。

 壁に貼りつけてあるカレンダーを見て。

 その日が近づいていることに気がついた。

 だからといって、男の俺が特別にやることなんてないワケで。

 今年も母さんとかわいい妹が、甘党の俺のために何かくれるんだろうとか。

 親父が会社で貰ってくるもののご相伴にあずかることになるんだろうとか。

 その日は、俺にとってその程度の認識の日。

 菓子メーカーのかき入れ時―――その日の名は、バレンタインデーという。



 当日、放課後。

「――れ? 藤原(ふじわら)、帰んないの?」

 放課後、部活も終わってほとんどの部員が帰った頃。部室の戸締まりをしようとしていた俺――間宮哲(まみや・てつ)の前に、片手に紙袋を持った女子が現れた。

 彼女の名前は藤原冴香(さやか)――この野球部の唯一のマネジにして、恐怖の女王様だ。見た目は色素の薄い痩せ形の美人さんなのだが、いかんせん中身は強烈な性格をしている。

 彼女は狭い室内をきょろきょろと見回した後、俺に向かって訊ねてきた。

「みんな帰った?」

「おー。後、俺だけ」

 答えて俺は開けっ放しの窓に手をかけた。背後から藤原の「ふーん」という気のない声が聞こえてくる。

 自分で訊いてきたくせに、何ていうか淡白なリアクションだ。

 小さく肩をすくめて、俺は窓の鍵をかけた。後はこっから出て、職員室に鍵を返しに行くだけ。

 もう一度、藤原に声をかけようと俺はくるりと後ろを振り向いた。ちょうど、そのとき。

「はい」

「は?」

 目の前に突き出されたのは赤い紙袋――ハートの図柄がデザインされている――だった。

 えーと。

 今日があのバレンタインデーという事実を踏まえますと。

 この紙袋は――。

「わお」

「何、そのリアクション」

 純粋に驚いてる俺に、冷ややかな藤原。俺は紙袋と彼女を交互に見比べながら問う。

「いや、だって、コレ、チョコでしょ?」

「そうみたいね」

「『そうみたい』って?」

 あくまで他人事として話す藤原に、俺は首を傾げる。何だ、藤原からじゃないんだ。そう察して、驚きも半減してしまう。

「……誰から?」

 しげしげと袋を見ながら再び訊ねる。すると、彼女はあっさりと答えを告げた。

「初璃(はつり)から」

 ――彼氏持ちからかいっ。

 俺は何となくげんなりとした気分で口を開く。

 だって、コレっていわゆる――。


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