だって冬ですから
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 あああっ! やっぱりダメなんだっ!


「ごっ、ごめんなさい」

 ズルズルと更に後退して、わたしは謝る。だけどすぐに曽根に腕を掴まれた。

「アホ逃げんな」

「だって!」

 目線をうろうろと彷徨わせて身動ぎすると、彼が目の前で特大のため息をつく。

「謝んなくていいから」

 そう言って彼は手を放す。そして、その手をこちらに差し出した。

「ホラ」

「い、いいの?」

 目の前の光景が信じられなくて、思わず確認してしまう。曽根の手と顔を何度も見比べていると、また彼がため息をついた。

「チャリがあるから駐輪場までだけどな。それでもいいなら」

「でも、さっき一瞬怒ったし」

「……怒ったんじゃねーよ」

 ぷいと顔を背ける曽根。その態度にわたしは首を傾げた。

「曽根?」

「……アレは反則」

 アレ? アレって何が?

 ますます分からなくなって、わたしは眉根を寄せる。曽根はそんなわたしを見て、疲れたように笑った。

「分かんねーなら、イイ」

 そして差し出したままの手を目で示す。

「んで、この手は?」

 ――いるの、いらないの?

 少し意地悪くされた問いに、わたしは即答した。

「いるっ!」

 そして、はじめて自分から彼の手を握った。

 曽根の手はポジションが捕手だからっていうワケじゃないけど、何ていうかホントに。

 捕る人の手だな、と思った。受ける、受け止める――そういう人の手。

 ボールももちろんだけど、それに籠められた想いとか、そういうモノを取りこぼさないように守ってきた人の手。

 だからかな。

「大きいなあ……」

 目を細めて呟いたら、曽根がニヤリと笑った。

「お前は小さいよな」

 子どもの手みてー。

 そう言って、ぎゅっと握ってきた。痛くなんかない、心地よい感覚。

 だけど胸の辺りがキュウッと苦しくなる。訳もないのに泣きたくなった。



 冬は好き。

 凛とした空気も、星がキレイに見える夜も。

 そして、寒さを理由にキミに甘えられるから。

 だから、冬は好き。



(……俺、たまにはバス通にしよーかな)

(何で?)

(そしたら駅まで、こうやって帰れるじゃん)

(――っ!!)



『だって冬ですから』終

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