そうして始まる僕らのカタチ 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ えーと、神様。 あのとき彼に言ったことは決してウソではありません。 だけどその本当のイミを、わたしはきちんと分かってなかったんだって。彼のあの目を見たとき、思い知らされました。 なので、あの発言はなかったことに出来ないものでしょうか? (――よし、まだ来てない!) 教室の後ろのドアから中を覗き込んだ。そして特定の人物がいないことを確認して、小さくガッツポーズを作る。 (今のうち今のうち……) 胸中で呟きながら、わたしはそそくさと教室に入った。 「おはよー、綾部(あやべ)」 「おはよー」 「あれ美希(みき)、熱下がったの?」 「うん、おかげさまでー」 声をかけてくる友人たちとにこやかに挨拶を交わして、わたし――綾部美希は自分の席へと急いだ。そして手早く荷物を片付けて、ちらりと隣の席を確認する。 カバンはかかってない。ということは、まだ彼は来ていないんだろう。今頃、朝練を終えて着替えているに違いない。 (てことは、来るのはいつもと同じ本鈴ギリギリだよね) それならばチャイムが鳴るギリギリまで他のクラスに行ってれば、彼に会うことはないだろう。とにかく今は少しでも彼と顔を合わせる時間を減らさなくては! 決意も新たに表情(かお)を引き締めて、わたしはくるりと後ろを振り返った。 しかし、そこには。 「おー。綾部、はよ」 「……っ!」 何で今日に限って教室に来るのが早いんだとか、何でわざわざ気配を消して後ろに立ってるんだとか、言いたいことはいっぱいあったんだけど。すっかり言葉に詰まってしまったわたしは、そのまま硬直してしまう。 そこには、出来るだけ会うのを避けたかった人物――そもそもクラスメイトにして隣の席なんだから、その考え自体無謀だったのかもしんないけど――が、いつもと変わらない人の好さそうな顔をして立っていた。 彼の名前は成瀬新(なるせ・あらた)。野球部の主将で、面倒見がよくて、英語が得意で、やたら物知りだけど嫌みな感じはしない、マメな性格の男友達だ。 ――うん、友達だ。友達だったはずなんだけど。 いちばん話しやすい相手だったはずなんだけど。 今、わたしは猛烈にこの場から逃げたくてたまらない。 |