そうして始まる僕らのカタチ 1 しおりを挟むしおりから読む目次へ やや俯き加減で立ち尽くしていると、成瀬が穏やかに声をかけてきた。 「もう熱は大丈夫なのか?」 訊(き)かれた言葉にわたしは慌てて答えた。 「うううううんっ」 「どっちだよ」 どもるわたしに、苦笑う成瀬。 そのいつも通りの表情に。 (もしかして) わたしが思ってるほど、あのとき言ったことを彼は本気にしてないんじゃないかなーなんて。 淡い期待を抱いてみたけど。 それはあっさり打ち砕かれた。 「お前、ロコツにイシキしすぎ」 そう言って成瀬が浮かべた笑みは、あのときと同じ。 『本気にするって言ってんの』 『どーする?』 そう言って、ニヤリと笑った成瀬。 (うわああああ……) ダメだ、絶対ダメだ。やっぱり成瀬の顔、マトモに見らんないっ! やっと下がった熱が、またぐんぐんと上がっていくような気がした。 「わわわわわわわたしっ」 「ん?」 最早マトモに喋ることすら出来ないわたしに、成瀬が怪訝な顔を向けてくる。ドサッといつもながら重そうなバッグを床に置く。わたしはそれに視線を移して、彼の顔を見ないようにして口を開いた。 「あのっ、おとといのっ」 おとといの。 (おとといの……) 「おとといのっ」 「おとといの?」 ――やっぱり言えないっ! 「――英語のノート、見せて下さい……」 「あ、ああ」 さっきまでの勢いはどこへやら。ぼそぼそとお願いするわたしに、成瀬は戸惑いながらもノートを差し出してくれた。それを受け取って、わたしはうなだれる。 (ううう……) 血の涙を流してるような気分で席に着き、借りたノートをパラパラと捲った。 男の子にしては(っていうとヘンケンなのかな?)キレイな文字が並んでる。その内容はおととい、わたしが早退した後の授業のもので。 毎日部活で疲れてるんだろうに、真面目だなあ。 そう思って、こっそり成瀬のほうを見る。すると窺うようにこっちを見ていた彼と目が合った。 (――っ!) 知らない。知らない。知らないよ。 あのときまで――わたしがあんなこと言うまで、キミがそんな目をするなんて思いもしなかった。 その目には、わたしの知らない熱がある。 だから怖くなって、息苦しくて。 (……やっぱり逃げたい) ごめんね、成瀬。 心の中で謝罪して、わたしは彼から顔を背け、ノートを写すことで何とかその場をやり過ごしたのだった。 * * * |