「オラ足出せ」
「え………ムリ…です……」
こうなったのは部屋に運ばれてすぐ。
新門がナナが寝泊りしている部屋にナナを抱えたまま入り、そのままナナを布団に下ろすと捻挫した両足に包帯を巻いてやるから足を出せと言ったのが始まり。
「何がムリだ」
ナナが青ざめた顔で拒否しているのは、男女が一つの部屋で………みたいな理由ではない。何かと手荒い彼に包帯なんか巻かせたら、かえって捻挫が悪化するのではないかという懸念からだ。
「絶対痛いでしょ」
「今のお前が巻くよりは絶対マシだ。髪乾かしてねェってことは腕も痛ェんだろ。いいからさっさと出せ」
「…………」
ーー 手荒で雑なくせに鋭すぎる。
胡座をかいて座る男から向けられた大きな手にナナは仕方なく足を出す。元はと言えば彼が原因の怪我でもあるのだけど。
「あの」
「あ?」
大きな手がナナの脚に慣れたように包帯を巻いていく。痛みは感じなかった。
「…昨日の。紺炉さんに聞いてようやく理解できたんですけど、新門さんは私に怒ってたんですね」
「だったらなんだ」
紺炉がナナに話した内容は全て知っていた。会話中部屋の外にいたからだ。
「……なんて言えばいいのかわかりませんけど、取り敢えずありがとうございま…痛い痛い痛い痛い」
「"取り敢えず"ってのはどういう意味だ?次は骨折がいいか?」
「い"…っ!」
意味不明で余計な一言に真顔でナナの足を親指で強く押す新門。ナナは首をブンブン横に振った。半泣きで。
「痛い……大体誰のせいで捻挫したと……」
「俺のせいだな」
「(ムカつくことをサラッと…)」
まるで罪悪感を感じていない新門に涙目のナナは腹が立つ。
でもそれは、昨日とはすこし違う怒りだった。
「言っておくがお前の氷で俺も右肩と左脚に穴が開いた」
「狙ったので…い"った!!!!何するんですか!?」
新門は発火した炎を操作する時、必ず指でなんらかの形を作っていた。ならばまずその手と、足の機動力を潰しにいくのは当然のこと。こちらの機動力も削ぎに来たクセに何を今さら………と思っていたらおしままた足首を強く握られた。
包帯を巻くのは確かに上手かったけど、絶対に自分で巻いた方がよかったに違いない。
「やっぱ目が良いじゃねェかナナ」
涙目のナナ。
新門はニィと口角を上げて笑っている。
ナナが"手の形"を見破っていたことが予想外だったからだ。
「絶対自分で巻いた方がよかった」
「お前が余計なこと言うからだ。次、頭出せ」
「は?」
「は?じゃねェ頭出せっつってんだよ」
「自分でやります」
「拭けねェだろうが」
「じゃあもう寝ます」
ーー本当にこの人無理。
いや、嫌いとかじゃなくてこう、強引すぎるし痛いし。熱もあって頭痛いし。ムリ。
足を引きずりながら布団に入る。心の中で愚痴を吐きながら。
「ならタオル敷いて寝ろ。熱あんだろ」
「ないです」
「…どうみても顔赤ェだろうが酒でも呑んでんのかクソ餓鬼」
ーー合わない。
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