第七特殊消防隊へと出発する朝。
朝から出動命令が出たので、昨日夜遅くまで他愛もない会話をしていたカリムには勿論、他の先輩や新人の顔を見ることはできなかった。
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「アサクサ………(コッチとは全然雰囲気が違うな。……あ、名前の呼び方に気を付けないと)」
町は平日なのに祭りのような盛り上がりを見せていた。制服とはいえ、ここの人たちとは服装が全く違うナナは物珍しそうな顔で見られる。しかし彼らはそれを嫌がっている様子ではない。むしろ歓迎していた。
「姉ちゃん姉ちゃん!あんた第一の消防官さんかい!寄ってけよ!」
「コラテメェ!抜け駆けすんじゃねェよ!」
「アンタ達ねェ……紅ちゃんのお客に決まってんだから、余計なこと言うんじゃないよ全く。悪いねお嬢ちゃん。紅ちゃんの詰所は分かるかい?」
言い合いをしているはずの客引きの男達は、肩を組み合って笑っていた。
「いえ、大丈夫です。そこを右にいった通りですよね」
「そうそう。あ、そうだ紅ちゃんとこ行くなら渡してもらってもいいかい?ちょっと待ってね」
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第七特殊消防隊の詰所に到着した。
「お。お前さんが第一から研修に来た沚水ナナか。ーー若!来たぞ!」
「よろしくお願いします。あの、これ……向こうの通りの女将さんが新門大隊長に渡してほしいと」
ここへ来る途中に出会った女将さんから預かった一升瓶の酒をナナは出迎えてくれた紺炉に渡した。
「(一升瓶の酒……さてはまたあの人だな)
……悪いな、来て早々。重かっただろ。俺は相模屋紺炉だ。ウチの中隊長をやらせてもらってる。とりあえず中に入ってくれ」
紺炉に案内され、ナナは詰所の暖簾を潜る。そこには既に第七特殊消防隊の大隊長、新門紅丸が待っていた。彼こそが唯一の煉合能力者であり、最強の消防官だ。
「皇国の犬が来やがったか」
「若……」
中隊長の紺炉はナナを快く迎えたが、大隊長の新門はそうではないらしい。
だが予測はしていた。第七は原国主義者で、皇国と太陽神への忠誠を誓っていない、第一や他の部隊とはまるで毛色の違う部隊だ。歓迎されるわけがない。
そのはずなのに自分の研修を受諾したのは、一体なぜなのか。
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