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『お待ち下さい』

「ぬぅ……?君はセブラ大佐の…」

雨の中響いた声。
味方もスカーの視線もアヤメに集まった。

『アームストロング少佐、マスタング大佐。私はセブラ大佐より、上の立場の方のお手を煩わせる事などあってはならないと常々言われております。ーー なので、私が片付けます』

「(上の立場の者の手を煩わせるなーーか。そうする事で手柄を横取りしろにしか聞こえないな。)」

ホークアイに転かされていたマスタングは、そう思いながら立ち上がる。

二、三歩踏み出したアヤメが止まった瞬間、水に高いところから大きな石を落としたかのように、バリッ…!!と アヤメの足元から半径数メートルが一瞬にして凍りついた。

「(…アイツはさっきの…!)」

エドワードはその人間離れした錬金術に目を見開く。ーー 冷たい顔をしたアヤメにも。

「ーー 成る程、氷晶の錬金術師か!」

凍りついたアヤメの足元の路面に、静電気のような音を立てながら薄紫の光が走ったかと思うと、路面を覆っていた氷がバキバキと音を立てながらアヤメの腰を越える高さの巨大で鋭利な棘に変形しはじめた。

「ならば貴様が先だ!」

走って向かってくるスカーに、足元で咲く相当な質量の氷の棘が放たれる ーー が、スカーはそれをいとも容易く破壊した。

しかしそれはどんな相手かを見極める為の初手に過ぎない。破壊される事など想定の範囲内。

薄紫色の光がアヤメの足元で光れば、今度はアヤメの足元で氷が盛りあがり、アヤメを建物よりも高いところへ押し上げた。
そして建物の屋根に着地し、すぐさま足元に氷を錬成ーーそしてさっきよりも細かく多く鋭い棘を作り、建物を登ってくるスカーに放った。

「……流石ですね。攻撃の繰り出しと距離の取り方が絶妙です。それに初手で放った大きな棘ーーあれは破壊の威力を見極める為でしょうね」

人間離れした戦闘に気を張りつつも、ホークアイはマスタングに話しかけた。

「ああ。是非ともうちに欲しい人材だ」

「ですよねー。しかもスゲエ美人ですよ。口説いてきて下さいよ大佐」

ーー ドォオオオオン!!!

アヤメを捕らえようとしたスカーの手が壁を破壊したが、その衝撃で飛んだ瓦礫は全てアヤメの氷が覆い、散るのを防いでいた。

「ちょこまかと…」

『そういえばさっき、神様がなんとかって言ってましたね。でもあなたがやってる事、錬金術師と同じですよ』

アヤメは敢えて距離を縮め、スカーの前に立ち、凍りつきそうな笑みでそう言い放った。

刹那 ーー バキッ…!ゴッ…!

スカーの放った拳と、アヤメの足元から錬成された氷の壁が同時にぶつかり、その衝撃でスカーのサングラスが地面に放り出された。

露わになったスカーの顔に、アヤメは目を細める。

「褐色の肌に、赤目の……!」

『すいません。こうするしか確かめようがなかったので』

「イシュヴァールの民……!」

マスタング大佐やアームストロング少佐だけではない、この場の軍人全員がスカーに目を見開いた。

「やはり、この人数を相手では分が悪い」

「おっと!この包囲から逃れられると思っているのかね!」

アヤメから距離をとったスカーを逃走させまいとマスタングが手を挙げれば、すぐさま憲兵が銃を構えた。

ーー ゴッゴゴゴ…ー!!!!!

スカーは手を振り上げそのまま落とし地面に大きな穴を開けーー同時に逃亡した。

半歩遅れてアヤメの足元から一直線に伸びた氷が地面に空いた大きな穴の周りをぐるりと一周回り、今度はトゲではなく、先端が鋭利な棒とも縄とも取れる柔軟な氷がスカーを逃すまいと勢いよく上がった。

「待て!」

上がったところでマスタングに止められ、まるで大きな穴を囲む鳥かごのようになった氷の縄。

「これ以上力を加えれば穴が拡張する」

氷は雪のようにはらはらと散って消えていった。

『申し訳ありません、啖呵を切って置きながら逃しました』

「いや、構わん。手を貸してくれて助かった。ありがとう。ーー おっと、額から血が出ているぞ」

マスタングとアームストロングに下げた頭を上げたところでアドレナリンが切れたのか、近距離でスカーの拳を受けた時に自分の氷が当たった額からダラリと生ぬるい血が流れた。

『あ……あー………』

「どれ」

ほんとだと言わんばかりに額を触って真っ赤になった手を見るアヤメにマスタングは歩み寄り、ポケットから取り出したハンカチをアヤメの額に当てた。

「痛むか?すぐに手当てさせよう」

その珍しい行動と、優しい口調に
これを口実にアヤメを口説く(部下にする作戦の一歩にする)つもりだなあの人ーーーと、マスタングの部下にはお見通しだった。

『申し訳ありません、マスタング大佐。ハンカチが…』

「気にするな。このままセブラ大佐のもとに帰すわけにはいかない。ーー 誰か、ニコラス中尉の手当てを!」

『大したことないです。それに報告もありますので』

「ならばこの後、私の執務室に来たまえ。セブラ大佐への報告はこちらの中尉に用意させよう」


ーー 大佐、上手くやってくれよと
現場を検証する部下達は思うのであった。



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